京都・蓮久寺の三木住職のもとには、助けを求める人が絶えません。ポルターガイストに悩まされる人、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた「続・怪談和尚の京都怪奇譚」(文春文庫)より背筋の凍る2篇を特別公開。見えない世界に触れることで、あなたの人生も変わるかもしれません。
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シェアハウスにまつわる不可思議な事件
最近の若者は、人付き合いが下手だ、とか、人間関係から逃げる傾向にある、などという方がおられます。しかし、案外そんなことはないと私は思います。
なぜならば、シェアハウスという家賃の安い、共同生活型の賃貸物件が流行っていて、これなど煩わしいはずの人付き合いを避けては通れないと、私には思えるからです。
家賃が安いからという理由ももちろんあるのでしょうが、ここに住む人は、何も学生ばかりではありません。就職をして、そこそこの収入があっても、あえてシェアハウスに住んでいる人が増えてきているのです。
さて今回は、そんなシェアハウスにまつわる不可思議な事件をご紹介しましょう。
ある日、某不動産屋さんが、2人の方を連れてお寺に来られました。お一人は、シェアハウスを経営されている大家さん。もう一人は、京都の大学に通う女子学生さんでした。
「その後、お姉さんはどうですか」
と聞くと、明るい笑顔で、
「はい、順調です。今日は道が混んでいて、少し遅れてくるようなので、少し待っていただいていいですか」
もちろん、と私は頷き、ほどなくして、「遅れてすみません」とお姉さん夫婦が来られました。
この方達と、私のつながりは、半年以上前に遡ります。
不動産屋さんから、かなり夜も遅い時間にお電話をいただきました。
「今すぐ○○にある神社の前まで来ていただけませんか。大急ぎでお願いします」
私は何がなにやら分かりませんでしたが、のっぴきならない声音を聞き、とりあえず駆けつけることにしました。いざ着いてみると、神社の前には数台のパトカーが止まっています。
「大雲先生~こっち、こっち!」
不動産屋さんに手を引っ張られて連れて来られたのは、神社の横の路地を入った場所にある一軒家の前でした。驚くことに、警察官が忙しなく出入りされているではないですか。
「一体なにがあったのですか」という私の質問には答えず、「どうぞ入って下さい」と建物の中に連れて行かれたのです。
その家は、いわゆるウナギの寝床と称される、奥に長い間取りになった古民家でした。最も奥の突き当たりの部屋の前で、「それでは、私たちはこれで引き上げます」という警察官の声が聞こえました。
「どうもすみませんでした」
深々と申し訳なさそうに頭を下げているのは、このとき初めてお会いした、女子学生さんと大家さんでした。
さて、私はなぜここに呼ばれたのでしょうか。その理由について、さらに時間を遡ってご説明したいと思います。
この古民家は、表の構えこそ古びていますが、家の中は改装されて、シェアハウスになっていました。玄関に入ってすぐ横には2階へと続く階段があり、2階に上がると共同で使う台所とトイレ、お風呂があります。一階は、中央に長い廊下。その廊下を挟んで、左右には、各3室の部屋のドアが向かい合っております。すなわち、計6部屋があることになります。
しかし、このシェアハウスで入居者がいるのは5部屋で、向かって左の一番奥の部屋は、貸し出しされておらず、“開かずの間”とされておりました。ですから、このシェアハウスの住人は、女性5名ということになります。