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「バカじゃラップできないと伝わった」 Zeebraが語る『フリースタイルダンジョン』5年の“収穫”

Zeebraインタビュー #1

2020/08/19
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コンプラの時代に『ダンジョン』ではラッパーたちが斬りまくる

Zeebra 5年前に番組が始まった頃は「コンプライアンス」という言葉が話題になっていて、みんなが口をモゴモゴゴニョゴニョさせてた中、『ダンジョン』ではラッパーたちが唾飛ばしてスパァーッと斬りまくるわけでしょ。放送禁止用語には「コンプラ」マークをして逆手に取ってしまったし、みんながそのとき感じていたもやもやをスッキリさせる作用もあったのかなって、今では思います。

 もちろん、コンプライアンスで守られなくちゃいけない人がいるのは事実。でも、それが過多になりすぎていることによってエンタメが味気なくなっているのが日本の問題だと思うんです。日本より前からコンプライアンスの遵守を掲げていたアメリカは、今ではずいぶん緩く、楽になってると聞きます。だから日本は過渡期にあるのかなと思ってますけどね。

「俺は東京生まれ HIPHOP育ち 悪そうな奴は大体友達」で有名な『Grateful Days』のリリックを解説するなど、YouTubeでラップ講座を開設。Zeebra氏は慶應義塾大学でも講師として授業を行っていたが、こうした活動は、80年代に渡米した際にラッパーたちが貧困エリアの是正などを大学の講座で教えていたことがルーツにあるという。

 

――日本語ラップでも過激なリリック(歌詞)が見られる作品もありますが、コンプライアンスが重視される時代に、日本語ヒップホップの表現はどうあるべきだと思いますか。

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Zeebra この問題は今に始まったことじゃないし、今後も考えていくべきことなんだけど、音楽業界にはぜひ「ペアレンタル・アドバイザリー」システムを導入して欲しいですね。これはもともとアメリカのレコード協会が始めたもので、いわゆる映画のレイティングシステムと同じようなもの。激しい暴力描写や性描写、犯罪につながるような歌詞のある作品を未成年者が買えない、聞けない仕組みです。同様のシステムを日本の音楽業界にも採用すべきだと思ってます。

 

 音楽はBGMとして受動的に聞いてしまう場合もあるので、ラジオや有線でかけるものはバージョンを差し替えて対応すればいい。実際アメリカだとラジオバージョンは当該の歌詞だけを消して対応してます。そもそも音楽がダメなら、小説も映画も同じように全部ダメなはず。だから表現を限定するのではなく、棲み分ければいいと考えていますね。

『高校生RAP選手権』はずっと民放に持っていきたかった

――『フリースタイルダンジョン』、実はサイバーエージェントの藤田晋社長が力を入れていた企画でもあったそうですね。

Zeebra 2006年に雑誌の『SWITCH』で藤田さんに指名してもらって対談をすることになって、それが初対面でしたね。でもそのとき僕は藤田さんのことを存じ上げなくて、どんな人なの? ってスタッフに聞いたら、「ITの社長さんなんだけど、雨の中『さんぴんCAMP』(※1)をひとりでじーっと見ていたらしいです」と。それは本物のヒップホップ好きだからぜひとも会わないとって(笑)。

 

※1 さんぴんCAMP:1996年に日比谷公園大音楽堂で行なわれた伝説的ヒップホップイベント。Zeebra氏はキングギドラとして登場し、BUDDHA BRAND、雷、RHYMESTERといった一流アーティストが一堂に会し、雨の中ライブが行なわれた。

 で、その藤田さん率いるサイバーエージェントがテレビ朝日に枠を持っていて、『BAZOOKA!!!』(BSスカパー!)の一コーナーだった『高校生RAP選手権』をぜひ自分のところでやりたいと言ってきたんです。審査員として参加していた僕も『高校生RAP選手権』はずっと民放地上波に持っていきたいと思ってたんだけど、BSスカパー!から持ってくるのは難しくて。だったら新しいラップ番組をゼロから作ろうと始まったのが『ダンジョン』だったんです。