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賛否両論の大坂なおみ棄権がテニス界を動かした「中立という立場はない」

過去には人種差別について訴えてスポーツ界を追われたアスリートも

2020/09/09
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 大坂は、米プロバスケットボール(NBA)の試合ボイコットが決断のきっかけになったと語った。唐突な行動だったわけではない。5月にミネソタ州で黒人男性が警官に窒息死させられた直後には、ミネアポリスを訪問して抗議行動に参加し、ツイッターでは何度も社会変革の必要性を訴えてきた。

 大坂という選手が大会に必要なビッグネームで、かつ社会的影響力を持つことはWTAも大会本部も認識しており、準決勝という注目の舞台を前に、日程を変更せざるを得なかった。日程変更の決定は、大坂の棄権表明から約2時間後だったという。本人に自覚はなかったかもしれないが、テニス界を動かすべき人が動かしたということだ。

チームメートとともにフードをかぶったレブロン

 今回の試合ボイコットがNBAから始まったことに驚きはない。NBAは米プロスポーツで選手がもっとも積極的に人種問題に関わってきたリーグである。

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 2012年、フロリダ州で黒人少年が自警団員に射殺された。当時NBAのマイアミ・ヒートでプレーしていたレブロン・ジェームズ(現ロサンゼルス・レーカーズ)は事件の不当性を訴え、チームメートとともにフードをかぶった写真をツイッターに載せた。少年を射殺した男が「フードをかぶっていて怖かった」と射殺理由を語ったためだ。2013年、その自警団の男に無罪評決が下されたことで、現在のBLMにつながる抗議運動が米国各地に広がった。ジェームズはBLM誕生時から運動の中心的存在として発言を続けている。

BLMのシャツを着るレブロン・ジェームズ ©AFLO

ホワイトハウスに招待されなくなったNBA優勝チーム

 2016年には年間表彰式でNBAの4選手が人種問題を語り、ジェームズは「すべてのプロアスリートが声を上げて影響力を駆使しなければならない」と選手の社会的責任について熱弁をふるった。プロスポーツの優勝チームのホワイトハウス訪問は恒例行事だが、BLMに批判的なトランプ氏が大統領になってから、NBAの優勝チームは一度も招待を受けていない。

 試合放棄を提唱したのはNBAのミルウォーキー・バックスだった。本拠地ミルウォーキーはウィスコンシン州最大の都市で、8月にブレーク氏が撃たれたケノーシャの北約55キロにある。地元チームであることが、ボイコットの呼びかけに説得力を持たせた。そしてこの呼びかけは、コロナ禍がなければできないことだった。