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「黒人ならば日本人ではない」「スポーツに政治を持ち込むな」大坂なおみへの批判が的外れな理由

2020/09/01

「感情を揺さぶられた1週間でした」

 8月26日、大坂なおみ選手はその3日前にウィスコンシン州で起こった警官による黒人男性銃撃事件への抗議として、ニューヨークで開催中だったウエスタン・アンド・サザン・オープンの準決勝戦を棄権すると表明した。翌日、主催者側がBLMムーヴメントに賛同して試合の延期を決定したことにより大坂選手は棄権を取り消し、28日に設定された試合に臨んだ。

 大坂選手は試合には勝ったものの、試合中に左太ももの裏を痛めた。上記はそれを理由に決勝戦辞退を決めた29日の言葉だ。

 銃撃事件とそれに対する抗議デモが全米各地で起き、NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)などの試合ボイコットが表明された。アメリカ中が揺れていた。その渦中にあって自分は黒人としてどう振る舞うべきか。迷い、悩み、決断し、支援と同時に批判もされた辛い一週間だったに違いない。

©getty

 当初の棄権表明に対し、日本では凄まじい批判、非難が巻き起こった。批判にはあらゆる理由がみられたが、顕著だったのは「日本人なのに黒人問題を理由に棄権することが理解できない」という、国籍と人種を混同したものだった。

 大坂選手を巡る国籍と人種の混同、および多重アイデンティティへの無理解は、2019年に起きた日清のCM騒動の際にもみられた。アニメ化された大坂選手の肌が本人よりはるかに白く塗られていた件だ。

「私はアスリートである前に黒人女性」

 あの時も「日本人」には国籍、人種民族、言語、出生地、生育地などの組み合わせが無数にあり、大坂選手であれば「日本人」「黒人」「アメリカ人」「ハイチ人」「アジア人」「ミックス(ハーフ)」など多種のアイデンティティを持っているであろうことが盛んに語られた。

 もっとも、実際に大坂選手が上記の、または上記以外のどれを、幾つ、自身のアイデンティティとしているのか、それは本人のみが知ることだ。また、多重アイデンティティを持つ人はおかれた場面により、どれが最も強く出るかが変わる。

 今回、度重なる黒人への警察暴力事件に、大坂選手の黒人としてのアイデンティティが強く反応したことは言うまでもない。棄権を伝えるメッセージの中で「私はアスリートである前に黒人女性」と明言。棄権を取り消し、試合会場に臨む際には、振り上げた拳のイラストに「Black Lives Matter」と書かれた黒いTシャツを着ていた。

©AFLO

 このように今回の一連の言動の中で大坂選手は自身を「黒人」であるとしたが、「日本人ではない」とは一度も口にしていない。黒人であることと日本人であることは並存するからだ。