女子テニスの大坂なおみが試合棄権を宣言するなど、アメリカで黒人の不当な扱いに抗議するアスリートの行動が注目を浴びている。黒人の人権を訴えるアスリートの抗議は1960年代の公民権運動の時代から続いているが、2020年のムーブメントは明らかに従来と違い、単なる提言にとどまらずリーグや競技団体、大会本部の同調や支持を引き出している。
なぜ今、アスリートの抗議が効力を発揮しているのか。背景には、黒人アスリートが残してきた闘争の足跡という必然と、コロナ禍の影響などの偶然とのめぐり合わせがある。
「劇的な変化が起きるとは思わないが、正しい方向への一歩」
8月26日、大坂は翌27日に予定されていたW&Sオープンの準決勝を棄権することを明らかにした。ツイッターに英語で「プレーしないことで劇的な変化が起きるとは思わないが、白人が多数を占める(テニスという)競技で(黒人差別の)話題を持ち出すことができれば、それは正しい方向への一歩だと思う」と投稿した。ウィスコンシン州ケノーシャで丸腰の黒人男性ジェーコブ・ブレーク氏が警官に背後から7発撃たれた3日後のことだった。
大坂の棄権表明を受けて、大会本部は8月27日の全試合を中止して28日に再開すると発表。女子ツアーを統括する女子テニス協会(WTA)は、米国テニス協会などとともに「テニスは競技として団結して人種的不平等や社会的不公正に立ち向かう」との声明を出した。
テニス界には劇的な変化を起こした
大坂は主催者の姿勢に応えて棄権を撤回し、28日にBlack Lives Matter(黒人の命も大事だ=以下BLM)のTシャツ姿で現れて決勝進出を決め、記者会見では再び人種問題を語った。
「劇的な変化が起きるとは思わない」と言いながら取った行動で、少なくともテニス界には劇的な変化を起こしたわけである。ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は8月31日、テニス界を動かした大坂の行為について「スポーツはこのレベルになると、(現実問題からの)逃避でなく(問題を知らしめる)メガホンだ」と報じた。