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意見表明により代償を払わされる選手たち

 ただ他の競技に変化は訪れなかった。アリの記者会見で中心的役割を果たしたNFLクリーブランド・ブラウンズのウォルター・ビーチは引退に追い込まれ、二度とプレーすることはなかった。1968年メキシコシティ五輪の陸上男子200メートルで優勝したトミー・スミスと3位のジョン・カーロスは、表彰式で拳を突き上げて黒人差別に抗議。米国選手団から追放され、国際舞台に戻ることはなかった。

 状況は近年も変わらない。NFLサンフランシスコ・フォーティナイナーズ(49ers)のQBコリン・キャパニックは2016年、BLM運動の一環として国歌斉唱で起立を拒否した。抗議行動はトランプ大統領に批判され、シーズン後にフリーエージェントとなったが、獲得球団はなかった。スーパーボウルにも出場したスターQBは、以後プレーしていない。

コリン・キャパニックは、現在も所属チームがない状態が続いている ©AFLO

 大リーグでは2017年にオークランド・アスレチックスの捕手ブルース・マクスウェルがキャパニックに賛同して国歌斉唱で片膝をついた。批判を恐れた野球選手たちの支持はほとんどなく、現役選手でマクスウェルに賛同を伝えたのは当時ボルチモア・オリオールズにいたアダム・ジョーンズ(現オリックス・バファローズ)ただ一人だったという。マクスウェルは2019年からメキシコリーグでプレー。「(人種問題について)話せばすべてを失う」とESPNに語った。

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 意見表明をしたアスリートが代償を払わされる構造は、公民権運動時代から基本的に変わらなかった。だからこそ、選手の抗議行動が、リーグや競技団体の支持を引き出した今年8月の抗議運動は歴史的な転換点と言える。

©iStock.com

「中立という立場はない」

 人種問題について積極的に発信する大坂なおみのツイッターには、英語でも日本語でも多くの賛同と批判の返信がある。バックスに背中を押されて大きな一歩を踏み出したテニス界のスターに、アブドゥルジャバー氏が今年SLAM誌に寄稿した言葉を贈りたい。

「現代のプロアスリートは論争の的になる問題について意見を求められる。知的に明解に答えられるよう備えておかなければならない。中立という立場はもうないのだ。南アフリカの活動家デズモンド・ツツ師が言ったように『不当な扱いを受けて中立でいたら、迫害者の側に立つことになる』からだ」

 日本と米国とハイチをルーツに持ち、意見表明を恐れない、稀有なトップアスリートとして発信を続けてほしい。