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M-1から「正統派」が消えた? マヂカルラブリーを巡る激論で、松本人志の“あのフレーズ”を思い出すワケ

2020/12/22
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 何でもできる器用なコンビが、漫才でもいかんなくその実力を発揮した。おかしなマネージャーがタレントを一方的に振り回すという設定の漫才だった。上位3組の中では最もしゃべりの技術が高く、正統派の芸を期待している審査員の好みには合っていたのではないだろうか。

 そして、この3組による最終決戦が行われた。見取り図は2本目の漫才でもそつなく確実に笑いを取った。おいでやすこがも、1本目に続いて得意の歌ネタを持ってきた。どちらもウケていたが、1本目に比べると笑いの量がやや少ないように感じられた。

見取り図の盛山晋太郎(左)とリリー ©M-1グランプリ事務局

準決勝のネタを唯一温存していたマヂカルラブリー

 一方、マヂカルラブリーは1本目以上の大きな笑いをもぎ取った。テレビのモニター越しでもはっきり伝わるほど、会場全体がうねるほどの爆発的な笑いが起こっていた。

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 3組の中で彼らだけが、予選の準決勝で演じたネタを決勝の2本目に持ってきていた。通常、決勝進出がかかっている準決勝では、最も自信のあるネタをかけるものだ。そして、決勝では、ネタを温存してファーストラウンドで敗退してしまっては元も子もないので、通常は準決勝のネタを決勝のファーストラウンドでも演じる。

 だが、マヂカルラブリーはあえてそれを2本目に温存した。最終決戦で競り勝って優勝するために、あえて自信作の方を2本目に回したのだ。本人たちが語るところによると、この決断を下したのは出番の直前だったという。

©M-1グランプリ事務局

「これは漫才なのか」問題

 このネタ選びの妙が勝敗を分けた。最終決戦で彼らは文句なしの爆笑を取った。仮に『M-1』が「とにかくウケた方が勝ち」というルールだったとしたら、この日の優勝は満場一致でマヂカルラブリーだっただろう。

 しかし、『M-1』はそんなルールではない。そこにこの大会の難しさがある。『M-1』の審査基準は「とにかくおもしろい漫才」ということ。ここでのポイントは「おもしろい」と「漫才」の2つに分けられる。

 つまり、単に面白いだけでは十分ではないということだ。それが「漫才」であるかどうかも審査の対象になる。しかし、「漫才とは何か」という問いには明確な答えがない。プロの芸人の間でも意見が分かれる。だからこそ、2本目のウケ具合で言えば圧勝だったように見えるマヂカルラブリーでさえも、そのネタが漫才と呼べるのかというのが問われることになった。