「過去最高って言ってもいいのかもしれないですね。数年前なら誰が出ても優勝していたんじゃないか、というレベルの高さでした」

 大会の締めに審査員のダウンタウン松本人志がこう語るほど、2019年のM-1は沸いた。では何がこの“神回”を作ったのか。出場した漫才師たちのインタビューから、その答えに迫っていく。

「最悪や!」――トップバッターのニューヨーク、ツッコミの屋敷裕政が松本の審査コメント中に“噛みつき”、会場は妙な盛り上がりをみせた。一瞬の出来事にハラハラした視聴者も多かったが、裏で出番を待っていた見取り図は「あれでほぐれた」と明かし、すゑひろがりずは「M-1史に残る名言ですよ」と称賛した。

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 あのとき1番手の2人はどんな想いだったのだろうか?(全4回の1回目/#2#3#4へ)

昨年のM-1で1番手だったニューヨークの嶋佐和也(左、ボケ担当)と屋敷裕政(ツッコミ担当)

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「最悪や!」発言は本音? 狙った?

――まず、いちばん聞きたいところからうかがいます。ネタ後、審査員の松本(人志)さんに「僕の好みなんですけど、ツッコミの人が笑いながら楽しんでる感じがそんなに好きじゃない」と言われたとき、屋敷さんが「最悪や!」と返し、話題になりました。あれが神回と呼ばれる今大会の起爆剤になったのでは。あれは、思わず本音が出たのか、それとも意図的なものだったのか。どちらなのでしょう。

屋敷 半々ですね。このまま終わったら何もないなと思ったんで、なんか爪痕残さないといけないというのと、本音と。あれで盛り上がったとか言ってくれましたけど、それはたまたまです。大会を盛り上げなきゃなんて、1ミリも思ってませんでした。自分たちを何とかせなということでいっぱいいっぱいだったので。まあ、結果的に、僕がしょげて終わってたら、次の出番の人はやりにくかったと思いますけど(笑)。

 

――M-1では、極端に点が低かったり、審査員から酷評されたりして、芸人としての価値を傷つけられることを「死人が出た」と表現します。もし、あそこで屋敷さんが黙っていたら、今回はニューヨークがまさに「死人」になっていたかもしれませんね。

屋敷 いちばん忘れられやすいトップ出番で、点数もこのままならおそらくビリで、松本さんにこき下ろされて……あのまま、はけていたらと思うとゾッとしますね。

「やばい、やばい、松本さんがひどいこと言うときの空気やん」

――審査員の講評も、上沼さん、志らくさん、塙さん、巨人師匠までは好評価だったんですよね。ただ、5番目の礼二さんが「屋敷君のちょっとイジワルなツッコミがもっと聞きたかった」と。そこで屋敷さんがいつもと違ってソフトだった、優しかったという情報が加わった。それが松本さんコメントを誘発したようにも見えました。