史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。今回、話を聞いたのは2019年M-1で総合演出を務めた朝日放送・桒山哲治氏。
松本人志や上沼恵美子など大物審査員と芸人のやり取りもM-1の大きな見どころだ。審査部分の演出ではどんな工夫をしているのだろうか?(全3回の3回目。#1、#2を読む)
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「M-1はテレビ番組ではない」
――昨今、やや批判的な意味で「M-1の漫才は競技漫才になっている」みたいな言い方をされることがありますが、競技漫才と言われるのは抵抗がありますか。
桒山 まあ、競技化しているなあとは思っていますけど、スタッフとして競技漫才という言葉を自分たちからは使いたくないですね。
――でも、M-1は、漫才を競技のように見せることに成功したからこそ、これだけのコンテンツになったわけですもんね。
桒山 似た意味だと思うのですが、先輩からは「M-1はテレビ番組ではない」ということはよく言われました。「M-1は日本一の漫才師を決める大会であって、それを中継するのがM-1グランプリなんだ」と。最高の番組を作ろうとするのではなく、最高の大会にしようとブラッシュアップしていけば、そのライブ中継も必然、最高のものになると信じてやっています。なので、客席をどういう空気にすればいいのかとか、楽屋や舞台裏の環境をどうすればいいかとか、オンエアされないところに気を配ることも多いんです。
叙々苑、オーベルジーヌ……楽屋のお弁当も豪華に
――楽屋のお弁当は豪華らしいですもんね。
桒山 過去大会からずっと楽屋の弁当は豪華にしようという慣習は今も踏襲しています。叙々苑の焼肉弁当とか、オーベルジーヌ(出前で有名なカレー店)のカレーとかが、ちょっとずつ時間をずらして届くようになっていて、常に温かいものが食べられるように工夫しているそうです。
――M-1は、確かに、漫才番組を観ているというよりは、スポーツをライブで観ているような感覚になります。それでいて、スポーツにはない演出も適度に入っている。そのポジショニングが絶妙なんですよね。
桒山 総合演出は僕で3代目なのですが、先輩方が築き上げてくれた確固たるスタイルがあると思うし、もう数えきれない漫才師の皆さんが目指す大会になっているので、演出をガラッと変えたいとは思いません。M-1ってやっぱり凄いなと思ってもらえるように、去年と同じだなと思われないように、ちょっとずつリニューアルできれば、という思いです。
MC今田耕司さんはどのくらい“お任せ”?
――昨年は審査員の点数の出方が違いましたよね。