「過去最高って言ってもいいのかもしれないですね。数年前なら誰が出ても優勝していたんじゃないか、というレベルの高さでした」

 大会の締めに審査員のダウンタウン松本人志がこう語るほど、2019年のM-1は沸いた。では何がこの“神回”を作ったのか。

 今回、話を聞いたのは2019年M-1総合演出の朝日放送・桒山哲治氏。2017年大会から総合演出を務めてきた桒山氏の目に“神回”はどう映っていたのだろうか?(全3回の1回目。#2#3を読む)

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2019年M-1で総合演出を務めた朝日放送テレビの桒山哲治氏 ©山元茂樹/文藝春秋

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「“3つの波”が来たからや」

――昨年のM-1は未だかつてない盛り上がりだったと言われましたが、現場でも、その手応えはあったのですか。

桒山 終わった瞬間、本当にすごい大会だったと思いましたね。こんな大会があっていいのかと。松本(人志)さんが、エンディングで「過去最高っていってもいいのかもしれない。数年前なら、だれが出ていても優勝していたのではないか」と仰ってくれましたしね。ミルクボーイさんが史上最高点(681点)を出してくれて。

――最終出番のぺこぱが3位の和牛をまくり、最終決戦に残りましたけど、あそこもすごかったですよね。

M-1史上最高の681点を出し、優勝したミルクボーイ ⒸM-1グランプリ事務局

桒山 僕も今回、どこがいちばんドラマティックだったかと言えば、ぺこぱさんが残って、和牛さんが敗退した瞬間だったと思います。笑い飯の哲夫さんが仰っていたんですけど、これまでもM-1は必ず2つ波があった、と。でも去年のM-1は何がスゴかったかというと、“3つの波”が来たからやと仰っていました。

 まず、かまいたちさんが2番手で、優勝ちゃうかと思えるような高得点を叩き出した。そして、3番手の敗者復活枠で和牛さんが上がってきて、かまいたちさんに次ぐ高得点を出した。ここまでが1つめの波。次のドラマがミルクボーイさんの史上最高得点。今までの大会なら、ここで終わってるわけです。ところが、まだ、ぺこぱさんが勝って、和牛さんが敗退するというドラマが待っていた。

――ぺこぱに対する各審査員の点数が出て、計算できないけど、これはすごい合計点になりそうだ、和牛を抜くのか……というあの20秒間ほどのドキドキは、今、思い出しても恍惚となるほどです。

10番手で登場したぺこぱ。和牛を2点差で抜き最終決戦に残った ⒸM-1グランプリ事務局

桒山 あのとき、和牛さんたちは、舞台裏でもう表情がグッてなってるんですよ。あかんかも、っていう顔をしていた。その様子が、ぺこぱの松陰寺(太勇)さんが「いけ~!」ってやってるのと実に対照的で。

――M-1の光と陰、栄光と挫折があの瞬間に凝縮されていました。

桒山 あの大会で一番印象に残っているシーンと言っていいかもしれません。

「笑神籤ガチなの?」芸人さんからも疑いの目

――それもこれも、漫才の神の差配としか思えないあの出番順にありましたよね。それにしても、今回、出場者の方々にもインタビューをさせてもらっていて、みなさんがおっしゃっていて驚いたのですが、笑神籤(えみくじ)はあんなにもヤラセではないかと疑われていたのですね。