史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。今回、話を聞いたのは2019年M-1で総合演出を務めた朝日放送・桒山哲治氏。

 昨年で15回目を迎えたM-1。その舞台裏では1000人ものスタッフが“最高の漫才大会”を作るべく励んでいるという。(全3回の2回目。#1#3を読む)

2019年M-1で総合演出を務めた朝日放送テレビの桒山哲治氏 ©山元茂樹/文藝春秋

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ぺこぱ松陰寺さんの“疑問”はホント?

――芸人の方に話をうかがっていると、「M-1のスタッフは、そこまですごいのか」という話がたくさんありまして。例えば、ぺこぱの松陰寺(太勇)さんが、ネタ中、後ろを向いてしまう瞬間があるのですが、マイクが声を拾ってくれないのでやるかやらないか迷っていたと(※「なんで3回も左に曲がると…右になってる!」というくだり)。でも本番の映像を見たら、ちゃんと声を拾ってくれていたので、ミキサーさんが一瞬で音量を上げてくれたんじゃないかとか言っていたんですよ。

桒山 おっしゃる通り、そこは技術スタッフに確認したところ、「もちろん上げた」と言っていました。それぞれのコンビが決勝でかける予定の漫才ネタ2本は技術スタッフ、美術スタッフ、制作スタッフ全員で共有していますから。動きも、笑いどころも、すべて頭に入っています。

1本目で「タクシー運転手」のネタを披露したぺこぱ。松陰寺がうしろを振り返ったとき、技術スタッフがとっさにマイクの音量を上げたという ⒸM-1グランプリ事務局

――すごいですね。

桒山 M-1の技術&美術スタッフに関しては、いわゆるジョブ・ローテーションのようにみんなで回すようなことはせず、毎年、各部門のエースがつきます。音声スタッフにしても、本当に長年やっていただいている方で、芸人さんがちょっとでもマイクから離れたらフェーダー(ボリューム)を上げるとか調整してくれています。笑い声に関しても、ギリギリを攻めるんですよ。

――ギリギリを攻めるとは?

桒山 放送するときのルールで「これ以上のデシベルまで上げちゃダメですよ」という決まりがある。でも、会場で笑い声がブワッと渦巻いて、セットが揺れるみたいな現象が起こるときがあって、それをテレビの前の人にも体感してもらうためにも、音声はギリギリまで上げてくださいとお願いしているんです。ネタのなかで、次にどこで笑いどころが来るかもわかっていますからね。笑いがブワッときたら、フェーダーもグッとあげる。なんだったら、報告書的には謝らないといけないぐらいまで上げてます。毎回、音声スタッフの方に「今年もよろしくお願いします」って言うと「覚悟はできています」みたいな。

かまいたちの“聞け!”でのカメラワークは「完璧でした」

――かまいたちは出番が2番目になったことで、1本目と2本目のネタ順を変えたと言っていましたが、ああいうケースは焦ったりしないのですか。