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バブル時代に「日が当たりすぎて人間性を失くしていく」テレビ局の人たちを見たからこそ思うこと

若松節朗(監督)――クローズアップ

2021/01/20
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 約30年前、日本中を浮き足立たせた狂乱のバブル景気。その崩壊後、経営破綻した住宅金融専門会社(住専)の莫大な不良債権を取り立てるために国策会社(のちの整理回収機構)が設立された。中でも悪質な債務者への取り立てを任務とするのが不良債権特別回収部、通称トッカイだ。反社会的勢力と組んだり、タックスヘイブンなどの制度を悪用して巨額回収を逃れようとする狡猾な債務者とトッカイの攻防を描いた「連続ドラマW『トッカイ ~不良債権特別回収部~』」が1月17日よりWOWOWで放映される。原作は元読売新聞社会部の清武英利氏のノンフィクション『トッカイ』だ。若松節朗監督は、山一證券で清算業務を担当した社員を描いた『しんがり』、外務省機密費流用事件を追った『石つぶて』に続き、清武原作のドラマは3度目となる。

若松節朗監督

「清武さんの作品は、組織の駒にならずに自分の信念を持って奮闘する、日陰にいるような人たちにスポットライトを当てているのが魅力なんです。僕自身、バブル時代に日が当たりすぎて人間性を失くしていくテレビ局のプロデューサーやディレクターを見ているから、陰ながら頑張る人たちが成功してほしいという気持ちが強いんですね。『トッカイ』も、主人公の柴崎はじめ、集められたのは組織から弾き出された人たちばかり。大銀行から出向してきたような人間は最初はプライドが高いけど、銀行すら潰れていく状況を見て、変化していく。そういう人間ドラマも非常に興味深かったですね」

 トッカイのリーダーである柴崎を演じるのは伊藤英明だ。

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「彼には代表作『海猿』のような熱血漢ではなく、質実剛健で誠実なリーダーとして抑えた芝居をしてもらいました。僕が現場のリーダーとしてこだわっているのは、この上司がいるからここで働きたいと思われること。例えば部下やスタッフに対して、叱る時は個人を呼び出してダメな点を指摘して、褒める時はみんなの前で良かったと言う。そういうリーダーから『ここは君に任せた』と責任を負わされると部下は、この人のためならと、いつもの2倍3倍、頑張ります。伊藤くんはそういう理想のリーダー像にちゃんと応えてくれましたね。役者としての伸びしろもまだまだ感じましたし、何より『トッカイ』という作品の中心にいてくれて、僕らも心強かったです」

 清武原作3作をはじめ、これまでも映画『沈まぬ太陽』や『Fukushima 50』など、事実を基にした社会派作品を手掛けている。

「僕自身は基本的にはノンポリだし、チャラ男です(笑)。でも原作本を読んで映像化したいと思う瞬間は、こんなふざけた奴がいたのかって怒りが湧いているんです。怒りがないと、制作する時にスタッフ・キャストともディスカッションできませんから。この作品の中でも、6850億円もの巨額の税金が投入されたわけです。そういうことに強い感情を抱かないと作品に深く踏み込んでいけないですから」

わかまつせつろう/1949年、秋田県生まれ。多くのドラマや映画を手掛ける。近作にドラマ『アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理 吉田茂~』、映画『空母いぶき』など。

INFORMATION

連続ドラマW『トッカイ ~不良債権特別回収部~』
https://www.wowow.co.jp/drama/original/tokkai/

バブル時代に「日が当たりすぎて人間性を失くしていく」テレビ局の人たちを見たからこそ思うこと

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