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《東日本大震災から10年》「原発建屋の中で全面マスクをしながら昼寝する」 細野豪志が取材した“いちえふ”の日常

細野豪志氏、竜田一人氏対談#1

genre : 社会, 読書, 働き方

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竜田 だけどやっぱり、あそこを片付けることで世の中の役に立ちたいところもちょっとはあった。まあ、それは普通のどんな仕事でもそうじゃないですか。やっぱり、この仕事をやってても、例えば「おいしい料理を作って人に喜んでもらう」とかと同じで、「自分の仕事で世の中が少しでも明るくなればいい」くらいの気持ちの延長だと思いますけどね。

待遇を良くして、入りやすくする以外にない

細野 それがまさに人の気持ちっていうものかもしれませんね。その中ですごく印象に残ったシーンがいくつかありましてね。一つははじめのほうに出てくるんですけど、「この職場を福島の大地から消し去るその日まで」頑張るんだと。これって、なかなか普通の職場ではない感覚だと思います。サビ止めの塗装をすごく上手にやる人とか、溶接の技術がすごいという人がいるんだけど、それらの技術と成果は一時的には利用されても、やがてなくなる。

©️文藝春秋

竜田 世の中には解体作業を専門にやっている会社だってあるし、どんな職人さんが作ったものでもいつかは壊れますよね。それと変わりありませんよ。

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細野 解体作業って、できるだけ単純化して、バタバタってやるじゃないですか。解体そのものは安全にやんなきゃならないけれど、スピード重視でやるわけでしょう。「いちえふ」では、途中で精緻な配管を作ってうまく水が回るようにとか、精密に溶接したり、技術の粋を尽くすわけですね。しかし、最後は解体するという。

竜田 いずれ壊すことを目的にやっているというのは、内心、複雑なところがある人もいるかもしれませんけれども、でもそれも含めて仕事ですから。

※写真はイメージ ©️iStock.com

細野 そこにいる人は会社も違えば、三次下請けの人もいれば、四次下請け、五次下請けの人もいたりとか。

竜田 だから、全然違う下請けの人が一緒になってチームでやっていたりするので、その辺も面白いっちゃ面白いですよね。

細野 ああいう混沌とした職場で人も相当入れ替わっている中で、確実に廃炉に向かって技術を伝えていくのはかなり難しくないですか。

竜田 どうしろって言われても、この場ですぐ答えが出る話でもないですけどね。まあ、他の仕事と同じように、働く人の待遇を良くして、人がいっぱい入ってきやすいようにする以外にはないんじゃないかなと。どんな仕事でもそうじゃないですか。

細野 やはり待遇は考えたいですよね。例えば、働く気はあっても、現場に投入されるまでに何日も何日も待たされて、その間は寮費を自腹で払わされるという話ですよね。その結果、実際に働く前にあきらめて帰っちゃう人もいたとか。

竜田 まあ、そういうケースもありましたね。