30年近くヤクザを取材してきたジャーナリストの鈴木智彦氏は、あるとき原発と暴力団には接点があることを知る。そして2011年3月11日、東日本大震災が発生し、鈴木氏は福島第一原発(1F)に潜入取材することを決めた。7月中旬、1Fに勤務した様子を『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文春文庫)より、一部を転載する。
とうてい原子炉に手を付けられる状態ではない
修復作業の概要も分かってきた。私の予想は完全に的外れだった。IHIの協力企業に就職できるチャンスを見つけ、躊躇なく飛びついたのは、炉心周りの専門職がもっとも危険、かつ原発の花形と思ったからだ。自分の身を危険にさらせばさらすほど、潜入ルポの商品価値は上がる。瓦礫の撤去に従事するより、無理をしても原子炉に近づきたかった。
が、同業者を出し抜き、初期段階で原発に潜入するなら、土木建築業者を選ぶべきだった。暴力団と原発というテーマからみても、暴力団が寄生するのは専門的スキルの不要な単純労働者であることは十分想定できた。炉心に近づけば近づくほど、私の求めていた情報からは遠ざかった。
1Fの現状は、とうてい原子炉に手を付けられる状態ではない。
ひたすら冷却を続け、これ以上放射性物質が飛散しないよう二次的な処置をするのが手一杯。肝心要の作業はこれからだ。東電関連会社の幹部によれば、プラントメーカーであっても、原子炉の詳細を把握していないという。
「まだ全然手を付けられないんです。正直言えば……わかんないです。まだそこまでデータもとれてないし、うちらの人間が行ってすぐ戻ってくるしかできない。まだ業者を本格的に建屋の中に入れる段階じゃないんです。エンジニアの人たちは行きたがるでしょうね。もっと近くまで行けば線量とか、原子炉の詳細が分かるじゃないですか。どういう状態なんだって、確信を持って言える。責任逃れのようだけど、あそこまで壊れた原子炉をどうしたらいいか、メーカーの人たちじゃないと分からない。でも中に入ればとてつもなく被曝するのははっきりしてる。道義上、作業側の人間が行くっていうタイミングじゃない。作業員を被曝させられない……そういうことです。