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トヨタが自社で手掛ける街づくり 「Woven City」はなぜ日本のデベロッパーに声をかけなかったのか

2021/03/09
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日本のデベロッパーには声がかからなかった

 モノという価値観だけでなくemotional feeling に言及し、この街に参加する人たちをfounder と名付け、一緒に街を育てていこうという発想には感服するばかりだ。

 なぜなら、私もかつては大手デベロッパーに勤務し、多くの街づくりと称する事業に関わってきたからだ。実は、豊田社長はこの計画を推進するにあたって、日本のデベロッパーには声をかけなかったという。なぜなのだろう。

 この計画をデベロッパー的視点から検証してみよう。まず、woven という日本人には発音しづらく大抵の人には意味もわからない言葉だが、これは英語のweave=織るという単語の過去分詞形である。織りなされた、つまりこの街には道路をはじめ、人の暮らしを支える様々な機能を織り込んだ街、という思いが込められている。もちろん、トヨタ自動車の創業時が自動車ではなく、豊田自動織機という織機であった歴史にも関係していることは言うまでもない。

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 でもこれがデベロッパーであれば「秀峰富士とともに暮らす高揚」「日本一を胸にした誇り」などのマンションポエムがまずは浮かんでくる。街中に造るのは、富士山を見晴るかす地上50階建てのタワーマンションだろう。その名も「富士山スカイタワー」がピッタリくる。アウトレットモールや商業モールは必須。もちろんスーパー銭湯も欲しいところだ。温泉が湧出するかも大きな事業判断になるが、Woven City にはあるのだろうか。詳細がわからない。

©️iStock.com

「未完の街」は出口の見えない投資に

 計画ではこの街中には、自動運転車やゼロエミッションモビリティなどが高速走行する自動車専用道路、人と速度の遅いパーソナルモビリティが共存して歩行、走行するプロムナード、歩行者専用の公園の中を歩くような歩道の3つの道を用意するという。

 デベロッパー的には、「安心・安全な車歩分離が徹底した街」くらいで良いのであって、そこに走るのが自動走行車か、歩いているのが高齢者などのヘルプをするロボットであるかはどうでもよいのだ。せいぜい考えつくのが、「街中は自動運転車があなたをお出迎え」や「街中はシェアリングエコノミー機能があります」程度のふれこみくらいか。

 そして豊田社長はこの街は「未完の街」でよい、と言っている。これは困ったものだ。デベロッパーとしてはさっさと売却していかないと、いつまでたっても出口の見えない投資になってしまうからだ。不動産屋にとっては、とにかく作ったら売らなければならない、早く売り払って、次のプロジェクトに入りたいのに、延々と街で実証実験を繰り返すというのは勘弁だ。