昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

トヨタが自社で手掛ける街づくり 「Woven City」はなぜ日本のデベロッパーに声をかけなかったのか

2021/03/09

 2021年2月23日、静岡県裾野市で、トヨタ自動車がWoven Cityの着工式(鍬入祭)を行った。Woven Cityとは、昨年の年頭スピーチで豊田章男社長自らが公言していた新しい未来都市だ。

 この計画は、同社の主力工場であった東富士工場を閉鎖し、約70万8000㎡、東京ドームにして約15個分の広大な跡地を開発し、完全自動運転車やロボット、人工知能などを取り入れた新しい技術を駆使した、今までに全くない新しい街を創ろうという意欲的な取り組みだ。実際に昨年の豊田社長の年頭スピーチのさまをYouTubeで拝見したが、社長の言葉の端々にも、この計画を実行することに対する強い意志が感じられた。

©️iStock.com

「あなたにはできない」「誰も応援しない」という声も

 ちなみに着工式を2月23日にしたのは、「223=フジサン」の語呂合わせだとのことだが、世界の大会社がこんな茶目っ気を出すところにも、むしろ会社としての真剣さを感じることができる。

 着工にあたってのスピーチで、豊田社長は「あなたにはできない」「誰も応援しないからどうぞ」と多くの人たちから疑問の声が寄せられたことを紹介している。そして「常に孤独の中で生きてきた」という会社の社長ならではの気持ちを吐露している。ましてや昨年の計画発表後、世界ではコロナ禍が蔓延し、多くの企業がその対応に追われ、社員は萎縮し、新しい発想を求められるような仕事に否定的な意見も多く出たに違いない。だが予定していたことを予定どおりに行うことは「とても困難なこと」であるが「とても大切なこと」なのである。

©️iStock.com

トヨタ自動車の実験都市

 計画では、この街には約2000人が居住し、「人が中心のプラットフォーム」を創ることを掲げている。そして今、自動車産業に求められているCASE(Connectivity=コネクテッド、 Autonomy=自動化、 Shared Mobility=シェリング、Electricity=電動化)を実現するために、様々な実証実験を行っていくことを目的にしている。

 つまりこの街はトヨタ自動車にとっては実験都市なのだ。実験を続けていくという意味は、豊田社長がスピーチでも触れているとおり「未完成な街」なのであり、また「未完成のまま」でよい街なのだ。

 彼はスピーチでも自問自答する。トヨタは確かに世界中に車という便利なモノを提供することには成功したかもしれないが、それによってすべての人を幸福にしたのか。高齢者や障害を持つ方を幸せにできたのか、交通事故はなくなり、環境破壊を食い止めることはできているのか。そして、これらの新たな課題を解決すべく新しい街を創るのだと言う。

「人への信頼」「母国への愛」そして「未来への責任」がSDGsを進めることの意義だとも述べている。