文春オンライン

「“暴力団”はいいけど“反社”とは呼ばれたくない」ヤクザとして生きる男たちの“不思議な本心”とは

『教養としてのヤクザ』より #2

note

溝口 山口組三代目・田岡一雄は、田中清玄と仲が良かった。田中は、戦前の非合法時代の共産党幹部で、戦後に右翼の政治活動家になった男。右翼とはいえ、民主社会主義をよしとし、国民の基本的人権をよしとする感性を持っていた。そういう人間と非常に密接な関係にあったことが大きい。田岡は古いタイプの親分だったにもかかわらず、そういった考えを受け入れる要素はあった。だから、組員に「正業を持て」と口を酸っぱくし、若い衆が金を持ってきても、「俺は子分に食わせてもらうほど落ちぶれていない」と受け取らなかった。今とは時代が違うとはいえ、自分が子分を食わせていくという気概があった。

今のヤクザはセミナー好き

鈴木 言葉が重い。今のヤクザは勉強会とかセミナーとかけっこう好きなんですよね。昨年は六代目山口組が共謀罪に関する勉強会を開いていました。直参組長から勉強会で使った資料を渡されて、「これを読んでどう思うか」と聞かれたり。

©iStock.com

溝口 共謀罪というから、ヤクザの場合なら、「下っ端の組員が上に命令されてヒットマンになりました」というケースで共謀罪が成立するかといったことを勉強するのかと思ったら、そうでもないんですよ。そういうことは書いていない。

ADVERTISEMENT

鈴木 紙には残さないでしょう、それは。

溝口 だけど、そういうケーススタディはやってないと思いますよ。上っ面の勉強会。

鈴木 そもそも共謀罪も何も、子分が敵対する団体の誰かを殺すときは、必ず親分に言われてやっているわけです。それが裁判で教唆と認められるかどうかが問題になるわけですけど、今の若い衆はお前が実行犯、お前が支援部隊、武器はこれを使えと具体的に指示をしないと動かないんだそうです。親分が認めていない殺しをすれば処分されかねない。

 だから、今の山口組分裂抗争がかつての山一抗争のように泥沼化しないのは、上が「やれ」って言わないから。上が抑えているからですよ。

溝口 今の法律で上に辿るためには組長の「使用者責任」があるが、組長の使用者責任は民事なんですよね。

鈴木 そう、刑事は関係ない。