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「お前の親父はヤクザだろ」高知東生も経験した“ヤクザの子供”に生まれたからこその“苦しみ”

『職業としてのヤクザ』より #1

 ヤクザの世界における「親子盃」は、親分と組員が疑似的な血縁関係を持ち、分かちがたい絆を結ぶことを目的にした重要な儀礼として広く知られている。とはいえ、関係性はあくまでも“疑似的”なもの。実の子供との扱いはまったく異なるものだろう。それではヤクザの親分は、実の子供と子分の扱いをどのように分け、振る舞っているのだろうか。

 ヤクザに関する著書を多数執筆する溝口敦氏、鈴木智彦氏両名による著書『職業としてのヤクザ』(小学館新書)を引用し、一般家庭とは違う、ヤクザの親子ならではの関係性、受難を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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子供をヤクザにするかしないか

溝口 ヤクザは子供にはどう接しているのか。疑似血縁関係である子分とは何が違うのか。

 それは、やはり同一ではありません。子供は子供であって、子分は子分。いくら疑似血縁関係といえど、やはりそれは商売であって、現実には実の子のほうがかわいいに決まっている(笑)。

鈴木 たいてい子供は溺愛します。家族の愛を渇望していたという面も大きいんだと思います。ただ、しつけはずいぶん暴力的で、殴る蹴るは当たり前です。

溝口 だからこそ、その子供をヤクザにするか、それともヤクザから避けるかというのは、ヤクザにとっては大問題です。

 山一抗争のころに、一和会の幹事長だった佐々木道雄とともに一和会の幹部の家に行ったことがあるんですが、そこのせがれが出てきて、佐々木に向かって、「おじさん、僕に就職先を紹介してよ」と言った場面に遭遇したことがある。彼は大学を卒業するかしないかのときで、佐々木は「うーん」と考えていましたが。ああ、こういうところは普通の家庭と同じだなと、僕は思いました。それで確かに佐々木は企業に顔が広いから、そのせがれは無事に就職できたと思う。

「お前の親父はヤクザだろ」

鈴木 ヤクザの子供が親をヤクザと認識するのは、けっこうな年齢になってからです。一種のカルチャーショックみたいです。例えば大人の身体には、絵が描いてあるのが当然だと思っている。学校に通うようになって、ようやく家の親は特別だと気づく。でも小学生の子供に、ヤクザとは何かをきちんと説明はできません。

 私の知っている親分の娘さんはずっと自分の父親を「サル山のボス」と認識していた。正しいですよね。周囲の人間関係がちゃんと見えている。でも、ヤクザが何であるか知ったのはずっと後です。

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溝口 いずれわかるものですからね。近所のガキが、「おまえの親父はヤクザだろ」って言いますよ。情報発信元の子供は大人たちの噂話を小耳にはさんで、発信する。

 だからこそ、子供をヤクザにするかどうかという問題が生じてくる。三代目山口組組長の田岡一雄は、満という長男をヤクザにはしませんでした。ちゃんと慶應大学経済学部を出して、甲陽運輸という元は田岡が経営していた会社の社長に据えて、満をカタギに育てました。それから、三代目山口組若頭の山健(山本健一)の奥さんの山秀(山本秀子)さんは、息子をカタギの企業に勤めさせ、山健が亡くなったあと、自分の家に山健の者を出入りさせなかった。