暴力団組織の「組長の妻」は、業界では「姐さん」と呼ばれている。
警察が事務所に踏み込むと騒ぐ子分たちをぴしゃりと叱りつけることもあれば、国内最大組織の山口組ではかつて3代目組長、田岡一雄の死去後、後継者が決まるまでの間、妻の文子が兵庫県警に「3代目姐」と認定され、事実上の“首領”とされていたこともあった。
実際の「極道の妻たち」について、暴力団幹部たちが実体験を語った。
「まだいたの」と冷たい一言
東京で活動している指定暴力団幹部が、対応に苦慮した「姐さん」とのやり取りがあるという。
「本家の部屋住みに出していた、自分のところの若い衆に不始末があった。そこで自分が出向いて、『姐さん、すみませんでした』と謝罪した。すると、姐さんはテレビを観ていて顔を向けてもくれなかった。再度、謝罪しても不愉快そうにテレビを観ているだけ。しばらくしてやっと、テレビを観続けたまま、『あんた、まだいたの』と冷たい一言。これには困った」
「部屋住み」とは、暴力団に加入した若者が、親分の自宅兼事務所などに住み込んで掃除や洗濯、調理、車の運転、訪問客の接待などを通じて基本動作を身に着けることをいう。行儀見習いの修行の場とも位置付けられている。暴力団幹部の多くは部屋住みの経験がある。幹部が続ける。
「しばらくすると、姐さんが『あの(不始末のあった)若い衆を、親分は気に入っているかもしれないけど、私は好きではない。絶対ダメ。これまで何十年も多くの若い衆を見てきたが、あの子は連れて帰って』という。
その後も、その若い衆を引き続き置いてもらうように頼んだが、姐さんはテレビを観たままだった。正直なところ、『姐さんがそこまで言える立場なのか』と少々、腹が立ったが、さらに『すみませんでした』と謝って引き下がった」