何よりも仁義を重んじる性分の“ヤクザ”は、ときに私たちには想像もできない行動を起こす。住吉会の会長補佐をつとめていた、大日本興行の鈴木龍馬最高顧問の自殺方法もその一つだ。柳刃包丁を腹に突き刺した割腹自殺。死に至るまでに苦しんだ時間は7時間。慄然とせざるを得ない最期といえるだろう。なぜ、彼は自らに苦しみを与え、命を絶ったのだろうか。
ここではノンフィクション作家山平重樹氏による戦後ヤクザ史に残る伝説の男たち43人の“死に様”をまとめた著書『ヤクザの死に様 伝説に残る43人』(幻冬舎アウトロー文庫)を引用。極限の苦痛の果てに自死した“サムライヤクザ”の“最期”を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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想像を絶する苦痛を自らに課した割腹死
住吉会の会長補佐をつとめていた、大日本興行の鈴木龍馬最高顧問が壮絶なる割腹自決を遂げたのは、平成14年10月21日のことである。
遺体の第一発見者は夫人だった。午後7時30分頃、外出から戻った夫人が浴室で見たのは、腹から大量の血を流し、すでに息絶えた夫の姿だった。遣体のそばには血にまみれた柳刃包丁が落ちており、浴室には内側からカギがかかっていた。その状況は覚悟の自決であることを物語っていた。
所轄の麻布署による現場検証、遺体検視の結果からも、柳刃包丁による割腹自殺であると断定された。
しかも、刃先を腹に突き刺してから、心臓が停止するまで、7時間以上経過していたという。自らにあえて想像を絶するような苦痛を課す死を選んだことに、慄然とせざるを得ない。
「この10年くらいの間に、ずいぶんヤクザの親分が自殺してますよ。ほとんどの人は拳銃で頭を撃ち抜くという方法をとってます。割腹して自らの命を絶った親分となると、きわめて希です。割腹といっても、昔の武士のように介錯人がいるわけじゃないですから、絶命するまでもがき苦しむわけで大変な苦痛ですよ。それほどの苦痛ある自決法をなぜ選択したのか。それこそ鈴木龍馬親分なりの責任の取り方、サムライヤクザと呼ぶにふさわしい、ケジメのつけ方だったと思います」
とは、ヤクザ社会に詳しいジャーナリストの弁だ。