日本刀で相手の腕を切り落とし、窃盗では数億円を荒稼ぎ——。1980年代後半に中国残留孤児2世、3世を中心に結成され、その凶悪さを恐れられた半グレ集団「怒羅権」。その創設期のメンバーで、13年間服役した汪楠(ワンナン)氏の著書『怒羅権と私 創設期メンバーの怒りと悲しみの半生』(彩図社)が話題だ。
汪楠氏は、「包丁軍団」と呼ばれた怒羅権の荒れ狂った活動の実態から、出所後に犯罪から足を洗い、全国の受刑者に本を差し入れるプロジェクトを立ち上げるまでの壮絶な人生を著書で綴った。刊行を記念して行われた、書籍を編集した作家、草下シンヤ氏と、テレビ番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」のディレクター、テレビ東京の上出遼平氏、そして汪楠氏のトークイベントの模様の一部を紹介する。(全2回中の1回目。後編を読む)
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2世の仲間と給食だけが、学校へ行くメリット
――汪さんが一番最初に犯罪に手を染めた理由は何ですか。
汪楠:もともと、中学生の頃から非行少年と呼ばれる存在でした。学校の中でいじめに遭って、抵抗したら殴り合いになる。それで向こうが上級生を呼んで、上級生と喧嘩したら今度はこっちも別の上級生を呼ぶ。そしたら、今度は学校に関係ないヤンキーが呼ばれて、そのヤンキーが自分らの学校の帰りに襲撃したりする。どんどん、学校で生きづらい環境になってくるんですよね。
草下:戦争と同じですね。小さな局地戦がどんどん転がって大きくなる。
汪楠:そうですよね。その中でも学校に通うことのメリットの一つは、家に帰っても誰もいないけれど、学校に来れば2世たちが60人いるということ。その内の男子に仲がいい人がいるから、中国語で喋るのが嬉しいんですよね。
もう一つは、給食は日本人と同じクラスに行かないと食べさせてくれないこと。お腹いっぱいになるのはやっぱりモチベーションになるから。この二つのメリットしかなくて。
でも、いじめに遭って喧嘩に明け暮れるのは嫌なんですよね。それで学校に行かなくなって、授業の時間に外でブラブラしてたら、警察に呼び止められたりしました。