ご飯をちゃんと食べている日本人の方が、ほんとは喧嘩に強い
草下:ある意味、日本人の中での犯罪は整備されていて、先輩から教えられることで成立する。でも、汪さんたちは新しい環境に放り込まれたから、犯罪や暴力が利益を生み出すという「発明」をしないといけない状況にあったし、そこに立ち合ってしまった。
汪楠:そうですね。「怒羅権は喧嘩が強い」とか言われることはあるんですけど、自分個人はめちゃくちゃ戦力にならなくて弱いんですね。ただ「やられたからやり返さなきゃいけない」っていう怒りがあって、アドレナリンというか「やられてたまるか」みたいな力だけで勝ってただけなんです。多分喧嘩に関しては日本人のほうが強いですよ。
草下:それはなぜですか。
汪楠:まず栄養を取っている。ちゃんとご飯を三食食べている。
あと、柔道や剣道をやってる人もいる。自分と同じ70年生まれの中国残留孤児は、ろくなもんを食ってないし、何もやってない。
相手に恐怖心を植え付けなければ、こちらが殺される
――汪さんはご著書の中で、「怒羅権はよく根性があると言われますが、違うのです。根性がないから、怖いから、暴力をふるうのです。とことん恐怖心を植え付け、復讐しようなどと決して思わないようにしなければ、こちらが殺されます」と書いています。ただ、喧嘩そのものにあまり経験がないと、人を攻撃する段階で怖いと思ってしまうのですが、汪さんのお気持ちは違うのでしょうか。
汪楠:常に多勢に無勢だったんです。例えば、葛西中学校50人のクラスに自分1人しかいなくて、ど突かれていじめられるというような状況だった。
「怒羅権」初期のときに喧嘩する相手は、大体2倍3倍の人数なんですよね。そのときに自分の背中を仲間に預けるっていうことを自然と学ぶんです。1対1だったら絶対負けます。「怒羅権は対マン張らない」って、暴走族、ヤンキーに言われるんですけど、そりゃそうですよ、対マンじゃ勝てませんから(笑)。