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汪楠:喧嘩は集団戦で勝つ。例えば自分らが3人で相手は10人だったら、3人で中国語でコソコソ話して、まず誰を倒すかっていうのを決める。それで、3人でそいつひとりに向かうんですよ。ほかの9人がどんなに自分を殴っても、自分は決めたやつしか殴らない。

 するとロックオンされた奴がすごい大けがするんですよね。そして恐怖心が生まれる。怒羅権は喧嘩が強いと思われるのはそこからきたと思うんです。

――なるほど。

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写真はイメージ ©iStock.com

初めて人を刺した、パンの耳の事件とは

汪楠:日本の喧嘩は、結構手を出すまでが長いですよね。

草下:「おまえから殴れ」じゃないですけど、やられると反撃できるんですよ。自分も別にグレてはいなかったけど、喧嘩しないといけない状況は子どものころからあった。でも理由がない喧嘩って「どうする?」になる。だから揉み合いになって、ぐちゃぐちゃな中で手がやっと出て、そしたら殴り合うとかっていう変なプロセスがあったと思います。

汪楠:自分はこの中で書いたように「パンの耳の事件」っていうね、そのときに初めて人を刺して……

草下:どんな事件なんでしたっけ。

汪楠:当時はもう家出して学校にも行ってなかったんですけど、着る物がないから制服だけ着ているような、お金のないひもじい生活でした。それで、7、8人ぐらいで、ある友人の家を溜まり場にしていました。

 その日はいくらか小銭を集めて、近くの競輪場のそばにある、おいしいパン屋に行こうとなったんです。そこは最後に大量のパンの耳を一袋10円ぐらいで買えるから。それを買いに行ったら、地元の暴走族に絡まれたんです。自分ら7、8人で向こうは30人ぐらいいて、これは多分喧嘩になると思った。それで、「喧嘩になったらパンは絶対落としちゃうよ」ってみんなで話していた。

 それはもったいないし喧嘩なんてしたくない。だから、地元の暴走族に「おまえらなんなんだよ」「おまえら中国人だろ」「ここに来んなよ」「中国に帰れ」とか言われている間に、みんなで「もうパン食っちゃおう」と決めたんです。それでムシャムシャずーっと食ってたんですけど、向こうにしてみりゃ「おまえらシカトしてパン食ってんじゃねーよ」って。

©藤中一平

草下:そうなりますよ。

汪楠:この後、絶対喧嘩になるけど、お腹が空いてるからパンの耳を先に全部食っちまおうと思って一生懸命食ってたら……