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「はよ、判決言えや。死刑だろうが!」血まみれの現場に囓りかけのリンゴを残した死刑囚が明かした家族との葛藤

「前橋高齢者連続殺傷事件」土屋和也死刑囚と母の告白 #1

2021/04/18

genre : ニュース, 社会

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殺人現場に残された「かじりかけのリンゴ」

 群馬県前橋市。どの地方都市にもある長閑な住宅街で事件は起こった。

 2014年11月10日午前3時頃、土屋和也(26歳、当時)は、93歳の女性宅に侵入し、女性をバールで殴り包丁で刺して殺害。現金約7000円を奪う。

殺害された女性宅を調べる群馬県警の捜査員(2014年11月)©️共同通信社

 1ヶ月後、12月16日午前3時半頃にも女性宅から約700メートル離れた81歳の男性宅に侵入し、包丁で男性の首や左脇を刺して殺害。トイレから出てきた80歳の妻も切りつけて重傷を負わせた。10時間ほどこの家に潜んだ後、夫婦を襲った。盗んだのはリンゴ2個だけだった。

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 逮捕の決め手は、現場に残されたリンゴだった。男性宅への侵入口となったとみられる、割られた出窓がある部屋には、芯の部分まで食べ切ったり、かじったりした状態のリンゴが複数残されていたのだ。

 付近の防犯カメラには事件後、和也とよく似た男が写り、現場に残されたリンゴに付着したDNA型と、彼の型とが一致した。俗に『前橋高齢者連続殺傷事件』と呼ばれている。金目当ての強盗殺人事件と報じられたが、その犯行目的と残忍な犯行の整合性がとれず、物証となるリンゴをわざわざ血まみれの現場に残した点も含めて、不可解な点の多い事件とされた。

 和也の自宅を捜査すると、室内はカップ麺やペットボトルなどのゴミで散らかり、電気は止められ、生活が苦しかった様子が垣間見られたという。

逮捕時、和也の自宅の窓際に散乱していた食べ終えたカップ麺の容器や空のペットボトル(2014年) 
©️共同通信社

 警察での取り調べに対して「家に入ったら人がいたので、刺した」「借金があり生活に困っていた」などと供述した和也は、高齢者2人を強盗目的で殺害し、1人に重傷を追わせたとして一審で死刑判決を受ける。

 続く二審でも控訴は棄却。最高裁に上告するも判決は覆らず2020年9月8日、死刑が確定した。