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「僕はバットを振ってない時も“振ってる”んです」西武時代のチームメイト・中村剛也が教えてくれたこと

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/09/09
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おかわり君が隣にいる幸運

 2012年、僕はライオンズに移籍してから2年近くが経ち、チームにもずいぶん馴れた。

 捕手から外野手にコンバートされたこのシーズン、宮崎県南郷市での春季キャンプ。幸運なことに、おかわり君と部屋が隣になった。

 キャンプ中は練習量も多く、日に日に疲れとストレスが溜まってくる。そんな状況で隣の部屋におかわり君がいるのは、僕にとってかなりラッキーだった。案の定、第2クールから毎日のように突撃訪問した。

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 癒しに加え、彼の近くにいられるメリットがもう一つあった。僕はこのシーズンから外野手に挑戦していたので、打撃力アップが必須課題だった。そこで隣の部屋へ、癒しと技術向上のために連日足繁く通わせてもらった。

 その節は本当に本当にありがとう。おかげさまで、キャンプを有意義に過ごせました。 

 おかわり君からバッティングで教えてもらったなかで、特に印象的だったのは脱力と、イメージトレーニングだ。

米野「一人で練習する時って、どんなことをしてるの?」

中村「うーん、なんすかね。別に特別なことはしてないですけどね」

米野「いやいや、なんかしてないと、あんなに飛ばないだろ!」

中村「脱力して、最後にバットのヘッドをクッと押し込んで効かせたら、飛びますよ」

米野「簡単に言うけど、それが難しいのよ」

中村「あとは、イメージですね。僕はバットを振ってない時も“振ってる”んですよ。実際にバットは小さい頃から、プロに入ってからも、若い時に散々振ってきたので」  

米野「ん? どういうこと?」

中村「イメージで、向かってくるボールの軌道に対してバットの軌道をどう合わせればホームランになるか、考えてます」

米野「おー! なるほど。それはいつでもできるね。ありがとう」

 おかげさまで僕は、そのシーズンに開幕1軍をつかみ、4月26日のソフトバンク戦では逆転満塁ホームランを打つことができた(おかわり君とクリのバットのおかげです)。

アーチストでロマンチスト

 満塁ホームランといえば、歴代1位の本数を打ち、“満塁の神”と呼ばれている中村剛也。8月22日のオリックス戦では22本目の満塁弾を放ち、自身の持つ記録を更新した。

 2位はレジェンドの王貞治さんで15本。それを7本上回っていることが、この記録の凄さを何より物語っている。

 おかわり君のことをよく知る人に、「彼が完璧に近いホームランを打った時は、まったく歯を食いしばらない」と教えてもらったことがある。大阪桐蔭高校の後輩である森友哉も、「バッティングで大事にしているのは脱力」と話していたと聞いたことがある。

 改めて映像で確認したら、おかわり君は打つ時、本当に歯を食いしばっていなかった。脱力というのは、なかなかできることではない。どうしても力んでしまいがちな試合で、それを実践できるのはすごい。それこそ、球界初の“脱力系&癒し系ホームランキング”中村剛也の真骨頂だ。

 そんな彼もスランプやチャンスで打てなかった時には、悔しそうにしている。傍目にはわかりにくいかもしれないが、長年4番という重責を任され、じつは人一倍チームのこともすごく考えている。

 同時にプロ野球選手として自分を貫き、ホームランへの飽くなき探究心を持ち続けている姿に一流を感じる。

 天性のホームランアーチストであり、9月10日の奥様の誕生日にホームランを放つロマンチスト。試合がなかった2012年を除き、2008年~2013年の9月10日、美しいアーチをかけ続けた。

 試合前、奥様が握ったおにぎりを食べているところを見たことがある。一般的なおにぎりの3倍はあった! 最初から“おかわり”状態の大きなおにぎりを食べている姿を見て、僕はまた癒された(笑)。

 試合では、そのおにぎりに負けないくらい大きな放物線を描く。

 そんなおかわり君が、みんな大好きだ。僕の中では、あなたが永遠のキングです。 

 僕は今年、メットライフドームに出店し、あなたの活躍をライトスタンド後方から見ています。これからも、たくさんのホームランを打ってね。

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