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「僕はバットを振ってない時も“振ってる”んです」西武時代のチームメイト・中村剛也が教えてくれたこと

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/09/09

 おかわり君こと、中村剛也。彼の名前を聞いてイメージするのは滞空時間が長く、綺麗な放物線を描いたホームランだ。

 打った瞬間に乾いた音が響き、打球が高く舞い上がる。そして、球場に響き渡るライオンズファンの歓声!

 僕はライオンズで彼とチームメイトになって、近い距離でこのシーンを何度も体験させてもらった。今でもそのホームランは脳裏に焼き付いている。

「異次元で微笑むアーチスト」。当時、文化放送の斉藤一美アナが実況時にそう異名をつけたのも納得させられるように、他を寄せ付けないペースでホームランを量産する。まるで野球漫画に出てくるキャラクターのようだった。

 ライオンズのチームメイトには同期入団の栗山巧がいて、今では2人がチーム最年長になった。

 2002年、おかわり君が高卒1年目。イースタン・リーグの試合前に行われた打撃練習を初めて見た時、西武第二球場(現CAR3219フィールド)のレフトにある高いネットを軽々と超える打球を次々と打ち込む姿を今でも覚えている。昨年まで高校生だった選手がこんなに飛ばせるのか! そんな衝撃を受けたものだ。

中村剛也 ©文藝春秋

プロ野球選手として類を見ない魅力

 でも、僕は2歳上で、球界では先輩だ。内心では、「プロの世界はそんなに甘くはないよ」と思っていた。

 いくらバッティングが良くても、その体型ではどうなのか。守りも走塁もそこそこできないと、プロでは通用しない。

 試合が始まり、中村の走塁と守備を見て驚いた。

 えっ! 足も速いし、グラブさばきも柔らかい。思ったより、全然動けるじゃん。これは絶対プロで通用するし、とんでもない選手になるぞ!

 プレーを目の当たりにすると、僕の印象はまるで変わっていた。

 その予想は、ズバリ的中することになる。ホームラン王6回、打点王4回、ベストナイン7回も取るとは、さすがに思わなかったが。 

 前のコラムでも書いたが、クリ、おかわり君、ナカジ(中島裕之)は若い頃から、他の選手にはないオーラの様なものを放っていた。クリとナカジは集中力と闘志が体中から溢れ出ている感じだった一方、おかわり君は全然違った。やる気があるのか、ないのかわからない。癒しのオーラが出ていた(笑)。

 完璧に捉えた打球の凄まじさと、そのキャラクターのギャップがとにかくすごい。それが、見た人に強烈なインパクトを残した。プロ野球選手として、他に類を見ない魅力がある。

 2010年シーズン途中に僕がスワローズからライオンズに移籍した時、おかわり君はシーズン途中に痛めた右肘の治療のために2軍でリハビリをしていた。たまたま彼が使っていた隣のロッカーが空いていたので、そこを使わせてもらうことにした。僕は初めてのトレード移籍で緊張していたが、それを察してくれたのか、時々話しかけてくれた。

 今思うと、意外と人見知りで口数も多くないタイプなのに、優しいヤツだなと。隣にいるだけで、僕はすごく癒されていた。それから緊張やストレスを感じた時には、無意識におかわり君を探すようになっていた(笑)。