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「私は遣り切りました」女子バレー代表辞退を申し出た“必要だった選手”《中田久美前監督・五輪後初インタビュー》――2021年BEST5

新鍋、佐藤の引退、長岡の故障、エース古賀も… 中田久美独占インタビュー #2

2022/01/28

source : 文藝春秋

genre : スポーツ, 社会

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顔を歪める古賀紗理那を見て

――初戦のケニア戦で絶対的エースの古賀紗理那(25)がケガをした。その影響は甚大だったのでは。

中田 もちろんです。チームの精神的支柱でもありましたから…。五輪前にケニアを分析するため、アフリカ大陸予選のケニア対カメルーンの試合の映像を観ていた際、ケニアの選手にパッシングセンターライン(*コートのセンターラインから足を踏み出すこと)が多いことが気になっていました。でも、選手に告げ変に意識されても困るので言わなかった。すると、3セット目の終盤で、センターラインを越えていたケニアの選手の足に古賀選手が躓き、足首を捻ってしまった。

初戦のケニア戦で負傷し、コート外へ運ばれる古賀紗理那選手 ©︎Getty Images

 五輪は何が起きるか分からないとリスク対策はしっかりしたつもりだったけど、まさか古賀選手にこんなアクシデントが起きるとは。五輪はやはり自分の想像を超えたことが起きてしまう。でも、動揺はしなかった。そう来たか、と。

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 ただ、コートの外に連れ出され、トレーナーやスタッフらが動いている隙間から、顔を歪めアイシングしている古賀選手が一瞬見えたとき、そこだけ時間が止まっているようで、複雑な気持ちになりました。彼女はリオ五輪のメンバーから直前に外され、東京に賭ける思いは誰よりも強かった。人間的にも技術的にも成長しコートの中心的存在になった。そんな古賀選手のこの5年間は何だったのか…と思うと、五輪の神様を恨めしくもなりましたね。

選手たちから不安を取り除くことはできなかった

――古賀選手のけがで選手間の雰囲気はどうだったんでしょう。

中田 古賀選手のために戦うとギアを上げる選手もいれば、チームの攻守の要だっただけに戸惑う選手もいたのも事実。もちろん私は平然とチームを締めましたけど、選手たちから不安を取り除くことができなかった……と思います。

チームの中心的存在だった古賀紗理那選手 ©︎JMPA

 危機感しかないにもかかわらず、チーム全員が古賀選手に対して気遣いし、古賀選手自身もまたみんなに気を使っていた。選手たちの人の好さが出てしまい、獲物を狙うようなギラギラした視線がちょっと霞んでしまったのかな……。