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中国政府は新型コロナウイルスの拡大抑制に成功した!? 日本人が知らない“中国式ロックダウン”の“知られざる真実”

『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』より #1

2022/01/11
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消えた粉ミルク

「粉ミルクがなくなりました。どなたか助けてもらえませんか」

 中国のSNSには、湖北省在住の母親から悲痛な書き込みが寄せられた。ロックダウンに伴う物流の混乱によって、小売店の店頭からは物が消えた。粉ミルクも例外ではない。地元政府も赤ちゃんの生死にかかわりかねない問題だけに、メーカーからの支給を受けて物資の調達を急いだ。ただ中国では、「生後6ヵ月以内の赤ちゃんが一度飲み始めた粉ミルクの銘柄を替えてはならない」と広く信じられているため、どうにか粉ミルクを手に入れても銘柄が替わることに不安を抱いている人は多かったという。

 人の食べる物すら足りない状況だけに、家畜の餌にまで手が回らない。ある養豚場では豚の餌を1日3回から1回に減らして耐え忍んだ。そうかと思えば、養鶏場ではニワトリたちはコロナ禍であろうとも毎日卵を産むが、出荷するための車両が確保できないとして悲鳴を上げていた。

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 いずれも三面記事的なこぼれ話だが、ロックダウンの難しさはこうした特別な例外が多発することにある。一つ一つの事例は枝葉末節の課題に見えるが、それが膨大にあることが問題なのだ。そして、こうした問題をクリアしていかなければ、ロックダウンの封鎖の壁は崩れてしまう。

 また、日常的な業務も膨大だ。私の手元には『新型肺炎の突発的流行に対する社区の対策:実践指南』『新型肺炎の突発的流行に対する社区の対策:組織と管理』という2冊の本がある。出版日は2020年4月。社区の対策に関する知識を共有するためのマニュアル本で、新型コロナウイルスの基礎知識から法令、隔離対象者への通知書の雛形まで、さまざまな内容が盛り込まれている。

 このマニュアル本によると、やるべき作業は非常に多い。社区の入口を少なくし(できれば1つにし)、その出入りについてはすべての記録を残すこと、全世帯を訪問する絨毯式調査を実施すること、体温検査による健康チェックの実施、防疫アプリの導入の推奨とその支援、感染対策に関する宣伝活動(宣伝ポスターの雛形も掲載されているが、感染予防を推奨するだけではなく、新型コロナウイルス感染症流行につけこんだ詐欺に騙されないようにとの内容も)、職場などの消毒を徹底させる愛国衛生活動の推進、ゴミや下水の管理徹底(エアコンのホースの水漏れなどが起きていないか、マンホールが外れていないかなども巡回しチェックすることが盛り込まれている)……。マニュアルどおりにすべてが実行されたわけではないにせよ、この仕事をこなすためには多くの人手が必要となる。