コロナ禍で感染症の脅威にさらされてきたこの2年、ウイルスとの対峙において、そもそも私たち人間はどんな世界を生きているのだろう。新著『コロナ後の世界』が話題の内田樹氏と、病理学の専門家・仲野徹教授が、ウイルスの“生存戦略”からコロナ後の日本社会まで、縦横無尽に語り合った。(全2回の2回目。前編を読む)

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「人間が死なない戦争」にシフトしていく

仲野 新著『コロナ後の世界』でいろいろ分析されていましたが、今後の社会で大きく変わる点はなんでしょうか?

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内田 あまり言われないことなんですけど、一番変わりそうなのは「軍事」なんです。実はコロナの感染が始まってからあと、大きな戦争は起きてないんですよね。アゼルバイジャンで少し領土紛争があったのと、アフガニスタンからの米軍の撤収の2つぐらいしか目立った軍事行動がない。

内田樹氏

 感染拡大の初期、2020年3月にアメリカはセオドア・ルーズベルト号艦内に感染者が出て、作戦行動を中止しています。艦船というのは、狭い空間に多人数を押し込める移動手段ですし、軍隊というのは多数の兵士を狭いところに詰め込んで、斉一的な生活をさせるものですから、軍艦というのは感染症にきわめて弱いわけです。

 アメリカの場合、通常の作戦行動は紛争地近海まで空母で移動して、そこからヘリコプターや戦闘機を飛ばしたり、ミサイルを撃ったりするものだった。でも、どこかの船で感染が広がったら、作戦を変更しなければならない。だから、これからどこの国でも、生身の兵士を大量に集めて、戦闘現場に連れてゆくということはできなくなるんじゃないかと思います。それよりはドローンやAI制御のロボットを使って、「人間が死なない戦争」にシフトしてゆくような気がします。

仲野徹教授

社会体制の変化

仲野 ドローン兵器といえば、今やとんでもないことが技術的に可能らしいです。AIを搭載した小型のドローンが人を探してすーっと飛んでいって、人間の目と認識した瞬間ピストルのように弾を撃つ。目の奥の骨はあまり厚くないので、弾丸が脳に到達します。そんな兵器を紛争地でバラ撒いたら無差別殺人は可能だと何かで読みました。もしそんな兵器が開発されたりしたら、アメリカの社会体制も変わってゆくんでしょうか?

内田 ドローンとロボットに戦闘を任せるようになると、心理的に戦争がしやすくなるのか、それとも戦争意欲が衰えるのか、どっちでしょうね。ロボットが壊されても、あまり国民的な怒りが盛り上がって、世論が好戦的になるということはなさそうな気がしますけれど。ともかくパンデミックで伝統的な戦争のやり方が変わることは間違いないと思います。