それから社会体制が変わるとすると、グローバル資本主義が停滞するということですね。すでにアメリカは医薬品や医療機器については国産に切り替えるようになりました。これまでマスクや防護服みたいなシンプルな医療資材はミシンと布があれば誰でも作れるものですから、製造コストの安い途上国にアウトソースしていたわけですけれども、それが足りなくてアメリカでは医療崩壊が起きた。だから、もう国民の生命にかかわるようなものについては、サプライチェーンを海外に頼るということは抑制されるんじゃないかと思います。
ビジネスマインドで医療政策を立てるのは自殺行為
仲野 医薬品や医療機器を国内でまかなえるのは理想ですが、はたして日本でもできるんでしょうか。それから、余剰在庫を持たないことを経営的な理想とする国で、使わないかもしれないものに莫大なコストをかけることができるのかどうか。そのあたりを真剣に議論しないと、すべてが中途半端に終わってしまうような気がします。
内田 でも、医療資源の管理をマーケットに任せたら、絶対に必要なときに必要な量が調達できないと思いますよ。だって、「在庫ゼロ」のジャストイン生産システムがビジネス的には理想なんですから。病院経営だって、「病床稼働率100%」がビジネス的には理想ですから、感染症が繰り返し起きるという時代にビジネスマインドで医療政策を立てるのは自殺行為ですよ。統治者がしっかりとした哲学をもって主導しない限り、感染症対策はできないです。
アメリカはもうグローバル・リーダーシップをとる気はなくなって、イギリス、オーストラリア、カナダあたりの「英語圏」でかたまって、ブロックを作って、そこに縮みそうな感じがしますね。先日、アメリカの外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ・リポート』を読んでいたら、「中国が台湾に軍事侵攻した場合には、台湾を見捨てよう」と書いた論文がありました。「台湾を守るために米中全面戦争になるのは、費用対効果が悪い」というのです。
今後の日本社会で起こる確実な大変化
仲野 クールすぎるような気もしますが、そういう判断になるんでしょうね。米中戦争になったらもう第三次世界大戦ですから、そこで失うものの大きさを考えたら。
内田 でも日本の新聞や雑誌なら、国益のために台湾を見捨てるべきだというような議論は掲載しないでしょう。クールでリアルな国益の計算ではなくて、なんだかべたべたした感情で動いているから。日米関係から日韓関係まで、どれも感情的でしょう。
仲野 ご本に、日本のアメリカへの期待は母子密着的で感情的であると書かれていましたね。アメリカのほうは気にしていないのに、と。ちょっと悲しい。