文春オンライン

「僕ら日本が大好き」部屋には鉄腕アトムやコップのフチ子が…謎多き世界的アーティスト・スパークスの“意外な一面”

岡村靖幸 幸福への道

note

あらゆるクリエイターに愛され尊敬されるスパークス

岡村 今回、お2人が原案・音楽を手がけたレオス・カラックス監督の映画『アネット』が、カンヌ国際映画祭で監督賞を取って。セザール賞では監督賞、オリジナル音楽賞など5部門受賞されたと。おめでとうございます。

ロン&ラッセル ありがとう。

コロナ前の来日時に  ©Hiroki Nishioka

岡村 ミュージシャンとして1960年代末から半世紀以上のキャリアを重ねていらっしゃいますが、映画を作ることは長年の夢だったそうですね。お2人は映画好きで、UCLAではともに映画を勉強されて。それがついに実を結んだと。

ADVERTISEMENT

ロン そうなんです。映画は僕たちの夢でした。70年代にジャック・タチと作る話があったけれどボツになり、80年代後半から90年代にかけては日本の漫画『Mai, The Psychic Girl(舞)』(注:原作・工藤かずや、作画・池上遼一。超能力を持つ少女の物語)をティム・バートンに実写化してもらう予定でしたが、それもボツ。そして今回、レオス・カラックスと作ることができました。すごく満足してます。

『アネット』 原案・音楽のスパークスに映画化を託されたレオス・カラックス監督が9年ぶりにメガホンを取り、昨年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞したロックオペラミュージカル。主演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール。配給:ユーロスペース 4月1日(金)全国公開 ©2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano


岡村 そもそも『アネット』はいつ頃から温めていた企画ですか?

ラッセル ストーリーと音楽に取りかかり始めたのは9年前。ただ、この映画は一般的な映画ではなく、ミュージカルですから。

岡村 ロックオペラミュージカルといいますか。スタンダップコメディアンとオペラ歌手が、お互いの才能に惚れ込み、恋に落ち、結婚し、一人娘アネットを授かるけれども、次第に男は才能が枯渇していき、2人の関係には不穏なものが漂っていく、という物語で。だんだんとサスペンスになっていくのが面白かったんですが、始まりから終わりまで、全部のシーンで歌うので、普通の台詞がない。ベッドシーンも出産シーンも。

主演のアダム・ドライバーとマリオン・コティヤールはベッドシーンや出産シーンに至るまで歌で表現 ©2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

ラッセル ミシェル・ルグランが音楽を担当したジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』(64年)みたいにしたかったんです。観る人は、最初は面食らうけれど、次第に歌ってることを忘れてしまう、それが日常に溶け込んでしまうようなものにしたかったんです。歌は、台詞で語るよりも感情が高められますから。

 そこにアダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーグといった一流の役者さんたちがみんな、「自分たちも参加したい!」と集まってくれて。

岡村 撮影では歌唱のアドバイスもされたりしたんですか?

ロン ほぼずっと現場に行ってました。歌は、オペラ以外は吹き替えではなく、屋外やセットで、その場でちゃんと歌って演じてるんです。口パクではなくてね。だから、役者さんたちは相当大変だったと思う。その前の準備段階で、歌に関するアドバイスや打ち合わせはかなり綿密にやりました。

ラッセル アダムはここに、僕の家に来てくれて、どんなふうに歌えばいいのか話をしたり。