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「ジョーが楽器を吹けなくなる。取材させてほしい」とプロデューサーが…「職業性ジストニア」を発症した元サックス奏者が、『カムカム』の音楽を手がけるまで

2022/03/22

 4月8日の最終回に向けて、見事な伏線回収で絶賛を集めているNHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』。終盤の物語のキーとなっているのが、2代目ヒロイン・るい(深津絵里)の夫で、原因不明の病でトランぺッターの夢を諦めざるをえなかったジョー(オダギリジョー)の音楽家としての再生の物語だ。

 実は『カムカム』の音楽を手がけた金子隆博さんにもジョーと同じ病に苦しみ、作曲家の道を選んだ過去があった。

ジョーは突然、トランペットを吹けなくなる(NHK提供)

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 撮影も中盤に差し掛かった頃、番組プロデューサーから伝えられたのは「ジョーがトランペットバトルで優勝します。ほどなく原因不明の病気で吹けなくなるというストーリー展開になるのです」。

 なるほど、脚本の藤本さん、そう来たか……といっても悪い印象は全く無く、これは波乱万丈のストーリーだなと思いました。プロデューサーからは「ついては、金子さんに取材させていただけないか」と相談されたので快諾しました。この病気については当事者でなければ分からないことがたくさんあると承知していたからです。

金子隆博さん

 僕は学生時代から「フラッシュ金子」の名で米米CLUBのサックス奏者としてバンド活動をしていました。発症はそれこそ「ある日突然」でした。忘れもしない、2006年にヴィンテージのマウスピースを試奏しているときのことです。首が泳いでしまい、サックスをくわえることができないのです。今にして思えば、それでも吹こうと無理やりサックスを構えようとしていたので、それを拒否するような身体を「震えている」ように感じたのだと思います。

 現代医療では、「震え」の症状は神経の病気「振戦」というそうです。僕の場合は当初、「本態性振戦」に当たると思われました。例えばパーキンソン病も震えの病気のひとつです。そのため、本態性振戦のクスリを数種類、パーキンソン病のクスリ数種類を片っ端から3カ月ごとに試していきました。どのクスリもまったく効きません。僕の身体も「何か違う」と僕自身に伝えていました。後になって判るのですが、症状は実は震えではなかったのです。

『週刊文春WOMAN vol.13(2022年 春号)』

「職業性ジストニア」という病気と判るまでに4年かかりました。ほかのことは普通にできるのに楽器を吹くことだけができなくなるとか、文字が書けなくなる、ゴルフができなくなるという病気は実際にあるのです。病名が判ると不思議にホッとするもので、これは脳の病気だということを聞いて腑に落ちた感じがしました。原因は、反復練習をし過ぎることもそのひとつと考えられますが、はっきりとは分かっていません。