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〈たまらん雰囲気〉北九州で遭遇した“大正2年建設”のリアルレトロ建築「上野海運ビル」を探訪した

〈たまらん雰囲気〉北九州で遭遇した“大正2年建設”のリアルレトロ建築「上野海運ビル」を探訪した

2022/04/09
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いざ、上野海運ビルに!

 そのときは残念ながら行けなかったが、数年後、私は再び北九州を旅することにした。前回行ききれなかった市場や商店街を中心に、気になっているレトロな建物を訪れる予定だ。山口県下関から関門橋を渡り門司へ。小倉、枝光、八幡、黒崎、折尾、若松、若戸大橋を通って戸畑に渡り小倉、門司へ戻ってくる。洞海湾をぐるっと一周する旅程を組んだ。

 若松の市場に立ち寄ったあと、いよいよ目的地である上野海運ビルが見えてきた。最上階に掲げられた「上野海運」の文字が、遠くからでもよく目立つ。ビルは若戸大橋のたもと、渡船場の目の前に建っている。

 駐車場に車を停めると、まずは周りをぐるりと歩いてみることにした。

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上野海運ビル来客者用入口

 上野海運ビルはもともと、石炭産業の興隆とともに、筑豊炭田の鉱山経営、石炭輸送・販売に本格的に乗り出した旧三菱合資会社が、その拠点となる若松支店として、大正2年に建てた事務所ビルだ。若松が日本一の石炭積み出し港として栄えていた当時、大手の銀行や商社の支店が集まる若松南海岸通りのランドマーク的存在だった。

 昭和44年まで三菱の事務所として使用され、同年には現所有者である上野海運株式会社のビルとなった。当時のデザインからは1階正面玄関部分が増築され、最上階の看板が位置する部分はモルタル壁になった。補修が行われていない壁部分や窓周りは当時のまま。門や塀などを含め敷地全体が100年以上前の姿をよくとどめている貴重な建物群である。

上野海運ビル本館裏側

 古そうなレンガ造の本館は縦長の木枠の窓が左右対象に配された、重厚なデザインである。一見、知らなければ入ることもはばかられる、関係者以外立入禁止といった雰囲気だ。ましてや中にはカフェがあり、誰でも無料で入ることができるとは思いもよらないだろう。

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