♪伊東に行くならハ・ト・ヤ 電話はヨ・イ・フ・ロ
1990年代頃まで頻繁に流れていたハトヤのCMを、ご存知の方も多いのではないだろうか。思わずくちずさみたくなる歌詞、頭にこびりつくメロディー、そして腕の中ではねる巨大な魚。誰もが知っているが、行ったことはあるかと聞かれたらどうだろう。
私もハトヤのCMは歌える世代だ。昔からぼんやりと存在は知っているが、私にとってハトヤとは有名なだけで、数ある旅館の一つに過ぎず、実際に行ったことも、行ってみようとも思っていなかった。その時までは。
宇宙的な渡り廊下に目を奪われる
近年、昭和レトロがブームになっている。若者にとっては新鮮に映り、その時代を生きてきた者にとっては懐かしさに惹かれる。ただ古いだけでなく、特にそれらのデザイン性や佇まいは人々を魅了し、雑誌では取り上げられ、SNSでは拡散されている。
私をハトヤへと向かわせたのは、レトロなホテルを特集する雑誌の記事だった。登録有形文化財に指定されたクラシカルなホテル、温泉街の老舗旅館、ドライブインに併設された渋い宿など、いつか訪れてみたいとぼんやり眺めていると、すこぶるかっこいい誌面が目に飛び込んできた。
なんだこれ? どこだここ?
それはハトヤホテルの渡り廊下だった。
腰の高さまで敷き詰められたストライプの赤い絨毯と、アーモンドのような形の連続した窓。ここを渡れば時空を越えられそうな、どこか宇宙的で近未来のような、不思議な空間だ。これを実際に見てみたい。私はその渡り廊下に目を奪われた。
ハトヤに泊まってみないかとレトロ好きの友人に提案すると、すぐさま目を輝かせ、旅の計画が始まった。CM曲を振り返りながら、記憶の中から知識を引き出す。海底温泉に入りたい! ハトが飛ぶディナーショーが観たい! 三段逆スライド方式ってなに? 誰ひとり行ったことはないが、知っている情報だけで充分盛り上がる。私たちは今まで、ハトヤへ行ってみたかったが、機会がなかっただけなのだ。
いざ「ハトヤ」へ!
新幹線で熱海駅へ。
駅を出ると目の前には、高さの揃ったビルが肩を並べ、巨大なビルの上には観光スポット、リゾートホテル、貸別荘の巨大看板が目につく。ロータリーにはホテルの送迎バスが並び、タクシーが客を待つ。
アーケードの架かる商店街にはレトロな喫茶店や土産物店が軒を連ね、観光客で賑わっている。