駅前でレンタカーを借りると、熱海の温泉街の方へと走らせた。大きな荷物を持つ家族連れやカップルで歩道は埋まり、宿泊客の車で狭い道は渋滞している。従業員が玄関先で客を迎える旅館が坂道に沿って建ち並び、忙しそうな時間が流れている。熱海のこの、観光地らしい浮かれた雰囲気は、何度来てもワクワクする。
坂道を下り終え海が見えると、国道135号線を通ってひたすら南へと進む。海岸沿いには海水浴場が広がり、山肌には真っ白いホテルや背の高いマンションが林立する、リゾート色の強いエリアだ。時折、観光スポットまでの距離を示す看板が現れ、さらに南へと私たちを誘う。
狭い坂道を登った先に突然現れた建物
しばらく走っていると、大きなホテルが小さな民宿に代わり、砂浜の海水浴場が釣り人の並ぶ堤防になってきた。伊東市に入ると、道路の両側には再び大きな旅館が建ちはじめ、温泉街に来たことを実感させる。熱海ほどの賑やかさはないが、ちょうどいい落ち着いた街並みだ。
ハトヤはもうすぐだ。国道から交差点を曲がると、急に住宅が迫る狭い道に入る。目的地に近づいてはいるはずだが、カーナビを疑いたくなるほど一向に姿が見えてこない。車がすれ違えないほど狭い坂道を思い切って登ると、突然目の前に現れた。ハトヤホテルだ。
大きなハトヤの文字、並ぶ丸い照明。ギザギザのガラス窓は、未来を描いた建物のようだ。豪快さと上品さを兼ね備えたハトヤホテルは、歴史を感じさせながらもその気品と華やかさは衰えていない。そして、本館から突き出している配管のようなものはもしや、例の渡り廊下ではないか? アーモンド型の窓に金属のような光沢はまるで宇宙船のようだ。奇妙なデザインは、ホテルに入る前から私の目を惹きつけた。
チェックインのために館内へ。ロビーは広く、高い天井に大きな窓、豪華なシャンデリアにいくつものソファーがズラリと並ぶ。ギラギラした照明と赤い絨毯は昭和時代の繁栄を連想させ、ゆとりある豪勢な作りに心がときめく。部屋の鍵をもらい、案内された方へ進むと、特集で見た渡り廊下が目の前に現れた。ここだ! その瞬間、両手を突きあげるほど興奮した。
渡り廊下は、本館と別館を繋いでいた。腰の高さまで敷き詰められた、ストライプとビビッドカラーの赤い絨毯。アーモンドのような形の連続する窓。頭上には、小さいながらも装飾が施された照明がキラキラ輝いている。時空を越えられそうなほどの距離はないが、時間を忘れるくらいの魅力は充分ある。