秋田には、「伝説」と呼びたい百貨店がある。
その名は「木内百貨店」だ。
秋田出身の知人は言う。
木内はかつて「秋田の三越」と呼ばれていて、家族で「ハレの日」におめかしをして出かける特別な場所であったと。
子供は親に連れてってもらえば自慢になり、買ったことを証明する包装紙や紙袋はもてはやされ、贈答品はここでと誰もが決めていた。
誰にとっても“憧れ”の場所だった
さらに、木内の従業員ともなると社会的地位があり、容姿端麗の秋田美人しか採用されず、秋田の女性は高校を卒業して木内に就職し、ハタチそこそこで寿退社することがゴールデンコースだったという。
修学旅行では必ず訪れる重要なスポットであり、主要の路線は木内前のバス停にもれなく停車する。
秋田を代表するステータスのかたまり、キラキラと輝く誰しものあこがれ、それが木内百貨店だ。
消費税を取らず、お釣りはピン札!?
そんな木内には、令和時代とは思えない耳を疑う話がある。
それは、今でも消費税を取らず、お釣りがピン札で返ってくるというのだ。
平成元年に消費税が導入されてから30年以上経っているのに一体どうゆうことなのだろうか。今どきお釣りがピン札で返ってくるなんてことが、本当にあるのか。そしてそんな百貨店が、はたして今でも営業しているのだろうか。
全国各地いろんな場所を訪れている私でも、にわかには信じがたい話である。
これは実際に行って確かめなければという衝動に駆られ、わたしは木内を目的地として北へ向かった。