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〈たまらん雰囲気〉北九州で遭遇した“大正2年建設”のリアルレトロ建築「上野海運ビル」を探訪した

〈たまらん雰囲気〉北九州で遭遇した“大正2年建設”のリアルレトロ建築「上野海運ビル」を探訪した

2022/04/09
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 本館西側には三菱のマークが壁に残る、レンガ造2階建ての倉庫棟が建っている。本館とともにレンガはドイツから輸入したものといわれており、大正当時の若松がいかに繁栄していたかを物語っている。

三菱マークが書かれた倉庫

 その北側には採掘した石炭の成分分析等が行われた、木造平屋建瓦葺の旧分析室が設けられている。

上野海運ビル本館裏側。奥に旧分析室
右側が旧分析室

 壁には多くのヒビや変色が見られるが、歴史を感じる佇まいにただ古いだけではない建築美を感じる。

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圧巻の内観!

 扉を開けると、キレイに磨かれた板張りの廊下が奥へと続いている。淡色の壁に年季の入った扉が並び、薄暗く寒々しい雰囲気である。

上野海運ビル本館1階の廊下

 1階にはビルを管理する上野海運のほか、いくつか会社事務所が入っているようだが、この日は土曜日だったため、人影がなく静まり返っている。唯一、今日の日付を示す日めくりカレンダーだけが、人の存在を知らせていた。

ビルを管理する「上野海運」の看板は歴史を感じる佇まい

 歩くたびにギシギシと音を立てながら階段をのぼる。踊り場で折り返すと、見えてきた光景に息を呑んだ。

雰囲気たっぷりな階段

「なんだこれは?!」

 そこには、1階の様子とはまったくかけ離れた、別世界が広がっていた。

上野海運ビル2階回廊

 2階と3階の中央部は吹き抜けになっており、鋳鉄製の柱と装飾が施された回廊が周囲を巡っている。ところどころ塗装が剥げている部分もあるが、それさえも味わいに感じてしまう。

塗装の剥がれも味わい深い

 吹き抜けから上を見上げれば、格子状の光天井にステンドグラスが嵌め込まれている。柔らかな光が降り注ぐことで、殺風景な内部に華やかな雰囲気を生み出している。

光天井のステンドグラス

 職人のこだわりや、現在の建築にはないデザインディテールに、しばらく立ち尽くし見惚れてしまった。こんな素晴らしい空間を独り占めしているなんて、夢でも見ているようだ。

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