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名医が受けたいがん治療(6) 肝胆膵がん篇

2018/05/10
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 がん患者なら、だれもが最良の手術を受けたいと願うもの。しかし「切るか切らないか」など悩みは尽きません。そこで名医と称される専門医たちに尋ねてみました。

「自分が患者だとしたら、どんな治療を受けたいですか?」

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  肝がん、胆道がん、膵がんは、「肝胆膵がん」と総称され、消化器外科では一つの専門領域として扱われている。といっても、それぞれ違う病気なので、治療法も大きく異なる。

 まず、患者数の多い肝がんから話を始めよう。

 肝がん(肝細胞がん)の約8割は、C型、B型の肝炎ウイルスが原因だ。ウイルスを駆除できないと、慢性肝炎、肝硬変と病状が進み、やがて肝臓は「がんの畑」と言われる状態になる。肝臓に複数の腫瘍が発生し、治療しても次々と新しい腫瘍が芽を出すのだ。

 この治療法として近年、すっかり定着したのが「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)術(以下、ラジオ波)」だ。超音波画像を見ながら太さ1.5ミリの電極針を肝臓に穿刺(せんし)し、腫瘍を熱によって壊死させる方法で、日本肝臓学会の「肝癌診療ガイドライン」では、肝機能が比較的保たれ、腫瘍の数が「3センチ、3個以内」の場合に推奨されている。同じ条件なら手術(肝切除術)も可能だが、開腹せずにすむラジオ波を選ぶ患者が増えた。

 だが、外科医の間では、「ラジオ波よりも肝切除術」という考えが根強い。国立国際医療研究センター理事長の國土典宏医師(国立国際医療研究センター外科)は言う。

「3センチ、3個以内の肝細胞がんを対象に、ラジオ波と肝切除術の再発率や生存率を比較する臨床試験を実施しました。将来、どちらが優れているかはっきりするでしょう。今はどちらでも、生存率に少なくとも大きな差はないと言われていますが、ラジオ波は腫瘍を焼き残すことがあり、再発が多いのは間違いありません。持病や高齢のため手術に耐えられないなら別ですが、私は確実に取り切れる手術を選びます」

 とはいえ、できれば大きく開腹せずに手術を受けたい。そのニーズに応えるべく、肝切除術でも腹腔鏡下手術を実施する病院が少しずつ増えている。

 おなかに4、5カ所開けた小さな穴から細長いカメラや専用の手術器具を挿入し、モニターに映る体内の画像を見ながら操作する腹腔鏡下手術は、器具の動きが制限されるため、細かい処置の必要な肝切除術には向かないと思われてきた。とくに、血管の塊のような臓器である肝臓の切除は、かつては「出血との闘い」と言われてきた。そのため、操作を誤って肝臓を傷つけると、重大事故につながりかねない恐れがあった。

 だが、近年、止血しながら切れる電気メスなどの道具が発達し、腹腔鏡でも問題なく切除できるようになった。また、先端が曲がるカメラも開発され、従来は肋骨を切らねば見えなかった横隔膜の裏側も難なく見えるようになった。従来に比べ、腹腔鏡による肝臓手術(腹腔鏡下肝切除術)の安全性は格段に高まったと言えるだろう。