治りにくいがんを“難治がん”と呼ぶが、その代表格が肝臓がんだ。2015年の予測値では罹患数が約4万7000人、死亡数は約2万9000人にのぼり、死亡率の高さがひときわ目を引く。
「一般に肝臓がんのイメージは、お酒の飲みすぎが原因と思われがちです。しかし日本人の場合、アルコールが原因で肝臓がんになる方は、患者さん100人のうち2人か3人と少数です」
こう語るのは、国内の肝臓がん手術数で6年連続トップとなる日本大学医学部長の高山忠利教授(消化器外科)だ。
「肝臓がんになる約6割の方はB型・C型肝炎ウイルスを持っていることが原因です。残りの4割は、まだはっきりとした原因がわかっていません。
ひとつの傾向として考えられるのは、糖尿病、脂肪肝、肥満、高脂血症とのつながりです。つまり太っていて脂肪代謝の悪い方に多く見られるため、別名“メタボ肝がん”と言われています」
症状もなく静かに進行するのが肝臓がんの怖さだ。
「肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれるほどですから、大半は自覚症状がありません。ウイルス性肝炎であれば、急性肝炎なら全身の倦怠感、食欲不振、黄疸などがありますが、慢性肝炎だと症状がほとんどない。そこから肝硬変に進むと、皮膚が乾燥して顔色は浅黒く、手足の筋肉が落ちて腹部が張るなどの症状が出てきます」
まず必要になるのは、原因の6割を占める肝炎ウイルスをチェックすること。
「血液検査で肝炎ウイルスの有無を調べましょう。健康診断や人間ドックではウイルス検査はほとんど行われておらず、市区町村の保健所なら対応しているところもあるので問い合わせてください。病院で受ける場合は自費診療になります」
特に日本人は欧米諸国と比べてウイルスの保有率が飛び抜けて高いという。
「気づかないで放置していると肝硬変や肝臓がんへと進む可能性もあるので、一度はきちんとした検査が必要です。B型肝炎ウイルスは血液と体液で感染し、キャリア(陽性)は全国に約150万人。C型は血液だけの感染ですが、約200万人いると言われています。50歳以上でキャリアかメタボの方なら年に1~2回は腹部の超音波検査を受けるべきです」
治療法の進歩で、生存率も右肩上がりに。
「30年ほど前は、肝臓がんと診断されたら余命半年と言われていました。しかし現在は手術ができれば5年生存率は全国平均で57%、日大附属板橋病院だと64%です。他のがんと比べて低いと思われるかもしれませんが、30年前はわずか20%でしたから大きな改善です。治療法で第一の選択肢となるのは、生存率の高い『肝切除』による外科手術です。肝機能が悪いなど手術に耐えられない場合には、高周波でがんを焼き殺す『ラジオ波焼灼療法』を選択します。手術でがんを取るのは3個までで、4個以上なら肝動脈を塞いでがんを死滅させる『肝動脈塞栓療法』で治療を進めます」