がんにかかる人が増えて、がんを予防する重要性が増している。だが、巷にあふれるがん予防法には逆効果になりかねないものも少なくない。適切にがんを予防するには、どんな心がまえが必要だろう。

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本当に、科学的根拠に基づいた情報?

 健康長寿を願う人にとって「がん」は、できればなりたくない病気の一つに違いない。だが、その願いとは裏腹に、1981年に脳血管疾患を抜いて以来、がんは日本人の死因1位であり続けている。しかも、その死亡率は年々上昇している。

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 がんになる人が増えたのは、日本人が長生きになったのが最大の要因だ。がんは、高齢になるほど増える病気だからだ。かつて、「人生50年」と言われた時代には、多くの人ががんになる前に亡くなっていた。がんになる人が増えたのは、それだけ日本人が長生きになった証拠でもある。

 とはいえ、がんになる人が増えたのは確かだ。いまや、日本人の2人に1人が「がん」にかかるとされ、3人に1人ががんで亡くなる時代となった。がんは、誰にとっても無縁とは言えない病気になったのだ。

 だからこそ、できるだけがんにならないよう予防すること、そして、がんになったとしても、早期に見つけて治療することが求められるようになったのだろう。世の中にはがん予防に関する情報があふれている。また、医師やマスコミは、ことあるごとにがん検診の大切さや、早期発見の重要性を強調する。だが、それらの中には、科学的根拠に乏しいものが少なくない。真に受けるとかえって命を縮める結果になりかねない情報もあるだけに、鵜呑みにしないことが大切だ。

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 たとえば一時期、β-カロテンやビタミンEなどの成分が、がんや動脈硬化を予防する抗酸化サプリメントとして期待され、世界的なブームとなったことがあった。そこで海外で、多くの人を対象に効果を検証する臨床試験がいくつも実施された。

 その結果、β-カロテンやビタミンEのサプリメントには、がんや動脈硬化を防ぐ効果は乏しく、それどころかそうした病気のリスクを高めてしまうことがわかった。つまり、これらの成分を通常の食事で摂るぶんには効果が期待できるが、それだけを抽出して多量に摂取すると、かえってマイナスとなる可能性のあることが明らかになったのだ。

 逆に「体に悪い」とされることが、「体にいい」面を持つ場合もある。たとえば、2015年、WHO(世界保健機関)に所属する国際がん研究機関(IARC)が、「加工肉(ハム、ソーセージなど)や赤肉(牛肉や豚肉など)に発がん性がある」という研究結果を発表し、世界中で食肉加工業者の反発を招いた。実は、加工肉や赤肉が大腸がんのリスクを高めることは以前から知られており、日本でも肉の摂取量が多い人ほど大腸がんのリスクが高まる結果が出ている。