雑誌やインターネットで紹介されるがん予防法の中には、科学的根拠のないものが少なくない。鵜呑みにすると、かえって逆効果になりかねない予防法もある。適切ながん予防をするためには、その是非の見極めが必要だ。

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 巷にあふれるがん予防に関する情報の是非を、どうすれば科学的に見極めることができるだろうか。たとえば、数年前に『長生きしたけりゃ肉は食べるな』という本が流行った。玄米菜食を基本とする食養生法などでも、牛、豚などの動物性たんぱく質は避けるよう指導されることが多い。やはり、肉類はがんの原因なのだろうか。

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 こうした古くからある考え方が現代にも伝わっているのは、経験的に正しいところがあるからかもしれない。実際に、肉を食べない食生活を続けている人の中には、病気知らずで、長生きの人もいるだろう。しかし、少なくとも科学的には、言い伝えや個人の経験談(専門家の意見も含む)は、信頼性が低いとされる。

 なぜなら、その人が長生きしているのは、肉を食べないからではなく、別の生活習慣や環境、あるいは遺伝的要素が影響している可能性も否定できないからだ。それに、日本文学者のドナルド・キーンさんのように、90歳を超えてなおステーキが好物という人もいる。だからといってキーンさんの例だけで、「長生きしたいなら肉を食べろ」とも言えないだろう。

 肉は食べないほうがいいのか、それとも肉は食べるべきなのか。どうすれば、科学的に評価することができるだろう。

 一番いい方法は、たくさんの人(被験者)を集めて、肉を食べる集団(仮にA群)と肉を食べない集団(同じくB群)に振り分けて、どちらががんになりにくく、どちらが長生きするかを長期間にわたって観察することだ。ただし、B群に元気な人を集めれば、「肉を食べないほうが長生き」という結果を作為的に導くこともできる。そのような偏り(バイアス)が生じないよう、被験者をくじ引きのような方法で、無作為に振り分ける必要がある。このような臨床試験の方法を、専門用語で「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ぶ。