だれもが、がんになりうる時代だからこそ、がんになってからのことも考えておくことが大切だ。玄米菜食を始める人も多いが、そうした食事療法をどう評価すべきだろうか。がんとの向き合い方を考えてみたい。

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ストイックな食事療法

 専門医に聞くと、がんと診断されると、それまでの生活を反省して、急に食事に気をつかうようになる人が多いそうだ。中には、ストイックな食事療法を始める人も少なくない。代表的なのが、がん予防にいいとされる「玄米菜食」だ。

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 この食事療法は文字通り、玄米雑穀を主食に、季節の野菜や果物、豆類、キノコ類、海藻類などを摂る食事法だ。少量の鶏、魚肉、卵は時々食べていいが、白米や白パン、砂糖、菓子、獣肉(牛、豚など)、牛乳などは原則的に摂ってはいけないとされている。

 精製された穀物や季節外れの野菜、遺伝子組み換え作物、添加物入りの加工食品といった人工的な食事を排し、自然の摂理に沿うものを食べていればおのずと健康になるというのが、玄米菜食の基本的な考え方だ。欧米では「マクロビオティック」の名で知られているが、オーガニックの野菜や果物を摂取して、塩や脂質、たんぱく質などを制限するゲルソン療法なども、玄米菜食に通じるところがあると言えるだろう。

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 こうした伝統的な考え方が、科学的に正しいと証明されているわけではない。だが、玄米菜食的な食事療法に期待する研究者は少なくない。抗がん効果があるとされる成分がたくさん含まれているからだ。たとえば玄米雑穀や海藻類には、老廃物の排泄を助けるビタミンやミネラル類が豊富だ。また、野菜や果物には、抗酸化物質や抗がん作用があるとされる成分が多く含まれている。さらに、キノコ類には免疫力を高める作用があり、がん細胞の増殖を防ぐと言われている。

 一方、牛、豚などの赤肉やハム・ソーセージなどの加工肉を食べ過ぎると、がん(特に大腸がん)のリスクを高めることは前述のとおりだ。肉の焦げた部分や酸化した脂、加工肉の添加物の中に、がんを促進する物質があると考えられている。この点からも、獣肉を排除する玄米菜食は、理に適っていると言えそうだ。

 それに、玄米菜食を支持する次のような研究結果もある。米国で乳がんと診断された2600人以上を対象に追跡調査を行った結果、果物、野菜、全粒穀物(精白していない穀物)、鶏肉、魚類を多く食べている人は、精白穀物、加工肉、赤肉(牛や豚)、デザート、高脂肪乳製品、フライドポテトを多く食べている人に比べて死亡率が低かった。また、乳がん生存者を対象にした別の米国の研究でも、野菜や全粒穀物を多く食べている人の死亡率は、そうでない人に比べて40パーセント以上低かったという。