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食事療法だけでがんを治せる科学的証拠はどこにもない

 これらのデータからも、がんになってからの予防に、玄米菜食は理想的な食事と言えそうだ。がんになると、生活ががんに支配されたような感覚となり、多くの人が不安感を持つ。しかし、食事療法によって、自分ががんを制御しているという気持ちになり、心が安定するのであれば、玄米菜食を続けるのはいいことと評価するがんの専門家もいる。

 ただし、過剰な期待は禁物だ。食事療法にがんの再発予防効果があったとしても、それほど大きくはないと考えられるからだ。むしろ、玄米菜食に慣れていない人が無理に続けると、それがストレスになってしまい、心身に悪影響を及ぼさないとも限らない。実際に筆者は、乳がんを患った経験のある人から、次のような話を聞いたことがある。家族のすすめで玄米菜食を始めたが、自分以外がおいしそうに餃子を食べている姿を見て、「なんで私だけ」と孤立感を覚え、精神的に追い詰められたそうだ。

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 また、インターネットなどで検索すると、「がんが消滅した」といった体験談を載せたサイトが見つかる。その中には有料セミナーに勧誘し、自然食品や健康食品、サプリメントを販売する業者がいるので注意が必要だ。食事療法だけでがんを治せるとする科学的証拠はどこにもない。それどころか病状が悪化すると、「指導を守れなかったあなたが悪い」と責任転嫁されるケースもあると聞く。ただでさえ藁にもすがる思いをしている人に結果責任を転嫁して、精神的に追い詰めるのは言語道断だろう。

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 玄米菜食にこだわりすぎると、逆効果になることもある。白米に比べ玄米は消化吸収しにくいからだ。がんの術後や治療中は、胃腸の機能が弱っているため、玄米を食べて嘔吐や下痢を起こしたり、栄養状態が悪くなったりする人もいるという。がん予防には体力も必要だ。やせすぎて免疫力を落としてしまったら、元も子もない。

 それに、体に悪いとされる肉にも、血管を強くするなどの効用があり、戦後の日本人の体力向上や寿命向上に貢献してきた面がある。ずっと白米や肉食に親しんできた人にとって、これらを断つのは苦痛でもあるだろう。したがって玄米菜食が苦手な人は、無理のない範囲でバランスのよい健康的な食事を心がけるといいのではないだろうか。

 なお、頭頸部(口腔、咽頭、喉頭)がん、食道がん、肝がん、乳がん、大腸がんなど、アルコールと関連するがんの患者が過度な飲酒を続けると、おなじ部位に新たながんが発生するリスクがある。また、喫煙も再発リスクを高めるだけでなく、呼吸器や循環器など他の病気の原因にもなり、命を縮める危険性がある。なので、がんになってからも、節酒と禁煙は心がけたほうがいい。