前稿までは「がん予防に効果のある食事」について検証してきました。
野菜や果物、大豆、それにコーヒーや緑茶など、それを積極的に摂取することでがんにならないようにする――という視点から推奨される食材を見てきましたが、本稿からは逆に、「がんのリスクを高める可能性のある食材」について考えていきたいと思います。
まずは「赤肉」です(本稿では、牛、豚、羊など「四足動物の肉」を赤肉と呼びます。鳥や魚の肉は含みません)。
肉食といえば、日本人には多くの生活習慣病の要因とされる「食の欧米化」の象徴のような存在。それだけに、がんの発生とも何らかの関係があるように思う人も多いでしょう。
赤肉にはタンパク質や脂質が多く含まれるため、高カロリーになりやすいという特徴があります。また、がんとも細くはない関係性が分かっています。
赤肉に代表される動物性食品には、亜鉛とヘム鉄という成分が多く含まれています。これまでの国際的な研究から、亜鉛は大腸がんのリスクを下げるものの、ヘム鉄は逆に危険性を高める作用を持っていることが示唆されています。
大腸がんのリスク要因であるヘム鉄は、体への吸収率が高い成分です。食べ物として取り込まれると、体内で活性酸素を作り出し、がんのリスクを高めると考えられています。
活性酸素とは体の“老化”の元凶とされ、がんの原因としても重要な役どころです。亜鉛で相殺される可能性はあるとしても、危険因子と分かっている以上は、取り込まないに越したことはありません。
赤肉の持つがんのリスクは他にもあります。生で食べることのほとんどない赤肉は、焼くか炒めるなど、何らかの調理を施すのが一般的です。その調理の際に、様々な発がん物質が生成される可能性があるのです。肉を高温で調理すると、筋肉に多く含まれているクレアチンとアミノ酸が反応して、ヘテロサイクリックアミンという発がん作用を持つ化学物質が生成されます。元々持っているリスク以外に、調理することでもがんのリスクを高めてしまうことになるのです。
ならば加工肉はどうかといえば、こちらにも難点があります。ハムやソーセージ、サラミなどを作る際に保存や発色のために使われる亜硝酸ナトリウムは、アミノ酸と反応するとニトロソ化合物というやはり発がん性の強い化合物を作り出すことが分かっています。
つまり、赤肉や加工肉を摂取することで、鉄分や発がん物質が一定程度体内に取り込まれることは、避けられない事実なのです。
しかも、肉食中心の食生活はタンパク質や脂肪が過剰に摂取される傾向となり、肥満になりやすくなります。肥満が高じてインスリン抵抗性(血糖に対してインスリンの反応が鈍くなり、高血糖状態が続くこと)になると、インスリンが様々な臓器で腫瘍を増殖する作用を発揮したり、肝臓では性ホルモンと結合するタンパク質の産生が抑え込まれて性ホルモンの作用が強くなり、乳がんや子宮体がんの発生を助長することにもなりかねません。
こう見ると、がん予防のためには赤肉を食べてはいけない――と思えてくるでしょう。実際、国際的には、赤肉や加工肉が大腸がんのリスクを上げるのは、確実と判定されています。ところが、実際にはそう深刻になることはありません。そのからくりを、次稿で解き明かしていきます。