骨の強化といえばカルシウム。そこで最初に思い浮かべるのが牛乳に代表される「乳製品」ですが、がんとはどのような関係にあるのでしょうか。 

 実は欧米で実施された複数の調査で、「乳製品やカルシウムが、前立腺がんのリスクを高める」と報告されており、日本での多目的コホート研究においても、同様の結果が出ています。  

 世界がん研究基金と米国がん研究協会は、前立腺がんのリスクを高める食事として、カルシウムが豊富な食品を可能性が大きい、また、乳製品を可能性が示唆されると評価しています。  

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 日本での研究について、少し詳しく解説しましょう。1995年と1998年に全国10の地域に住む45歳から74歳の男性約4万3千人を対象に牛乳、チーズ、ヨーグルトの摂取量を訊ねました。それを元に「一番多く摂っているグループ」から「一番少ないグループ」まで4つに分け、2004年まで追跡調査をしました。

 調査期間中329人が前立腺がんになり、乳製品の摂取量との関係を調べたところ、乳製品の摂取量が一番多いグループの前立腺がんにかかるリスクは、一番少ないグループの1.5~1.6倍と高く、摂取量が多いほど前立腺がんにかかりやすいことが分かったのです(カルシウムについても同様な傾向ではありましたが、統計学的には有意ではありませんでした)。  

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 では、乳製品は悪者なのか。答えは「良い面と悪い面を持ち合わせている」というのが正しいでしょう。  

 冒頭でも書いた通り、乳製品に含まれるカルシウムは、骨の強化を促進します。高齢化が進む日本で、重要な食材の一つと考えても不思議ではありません。  

 また、牛乳やカルシウムは、大腸がんを予防する可能性が大きいとも評価されています。多目的コホート研究でも、男性において同様の関連が示されました。さらに、乳製品からのカルシウム摂取量が多いと脳卒中や糖尿病のリスクも低下することが示されました。カルシウムが決して「悪い面」ばかりではないということがお分かりいただけるでしょう。  

 また、乳製品には飽和脂肪酸が含まれています。飽和脂肪酸にも多くの種類がありますが、乳製品に含まれるミリスチン酸、パルミチン酸の摂取量と前立腺がんの関係を調べると、これらの飽和脂肪酸を一番多く摂っているグループは、一番少ないグループの1.5~1.6倍と、先に紹介した乳製品そのものと同等のリスクがあることが示されました。しかし、飽和脂肪酸について日本人に多い脳卒中を予防する効果があることは、前稿でも示した通りです。  

 このように「良い」と「悪い」の両面を持つ乳製品と、どう付き合えばいいのでしょう。極端に多く乳製品を摂る欧米人と比較して、日本人はその摂取量は少なく、カルシウムが不足しています。厚生労働省が推奨する一日当たりのカルシウム摂取量は700ミリグラム(50~69歳の男女を対象)。コップ一杯の牛乳に含まれるカルシウムの量は約220ミリグラムです。一日あたり一杯の牛乳と、二日に一回200グラム程度の赤肉の摂取であれば、他の食材から摂取するカルシウムの量を勘案しても、摂り過ぎとなることはありません。

 がんを恐がるあまり、完全に乳製品を排除してしまうほうが、健康長寿を考える上でのリスクは高まります。「適度な摂取」を心がけましょう。