1ページ目から読む
2/2ページ目

 マスコミの情報を鵜呑みにしてはいけない

 しかし、こうした情報に触れて、肉を食べるのは控えようと考えるのは早計だろう。昔は、日本人のたんぱく質の摂取量が少ないため、血管がもろく、脳出血が多かったのだ。高度成長期を経て、肉をある程度食べるようになり、血管が丈夫になったおかげで、日本人の脳出血は減ったと言われている。つまり肉食は、日本人の長寿に貢献している面もあるのだ。そもそも日本人は米国人の3分の1しか肉を摂取しておらず、大腸がんリスクが高まるほどの量を食べている人は少ない。肉と魚介類をバランスよく食べていれば、それほど心配する必要はないわけだ。これらの例のように、がん予防になると思い込んで採り入れた健康法が、かえって逆効果になることがある。また、特定のリスクにこだわるあまり、全体を見ない健康法も間違いだと言えるだろう。

 がん検診についても注意が必要だ。大腸がんについては多くの研究で、検診を受けたほうが死亡率は下がるという結果が示されている。しかし、乳がん検診ではここ数年、検診を受けても死亡率は下がらないという欧米からの報告が相次いでいる。それどころか、「過剰診断」と言って、命に関わらない病変をたくさん見つけて、結果的に無駄な治療をしてしまうケースが、私たちが思っている以上に多いことが明らかになりつつある。

©iStock.com

 この事実は、がんを早期発見して、早期に治療することが、必ずしもよいことばかりとは言えないことを示している。しかし、こうした科学的な事実を、残念ながらマスコミの人たちは(そして医師の一部も)よく理解しないまま、「がん検診を受けよう」「がんは早期発見が大切」と流布している。こうしたことからも、マスコミの情報を鵜呑みにしてはいけないことがわかるはずだ。

ADVERTISEMENT

 2013年度、国民医療費はついに40兆円を突破した。このままでは、皆保険制度は破たんするのではないかと心配されている。医療費膨張の一番の要因とされているのが、日本社会の高齢化と医療技術の高度化だ。がんについても、超高額な医療機器や抗がん剤が登場して、治療費の高騰が心配されている。子や孫の代も安心してかかれる医療を維持するためにも、がんにならないようにすること、そして、がんになったとしても早めに治療して、お金をかけないことが重要なのだ。