みなさんはがんの「民間療法(補完代替医療)」に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。科学的に効果が証明されておらず、怪しいものと否定的に見ている人も多いのではないかと思います。

 がんの三大療法(手術、抗がん剤、放射線)を中心とする「通常医療」に対し、それを補う目的やその代わりに行う療法のことを「補完代替療法」と言います。がんに効くとされる健康食品やサプリメント、ハーブ類などの他に、玄米菜食、自然療法、鍼灸、気功といったものがありますが、確かに、それらの中で効果が科学的に認められたものはありません。

国立がん研究センターのサイトにも「勧められると判定されているものは1つもない」

 国立がん研究センターが運営するサイト「がん情報サービス」にも、はっきりとこう書かれています。

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「補完代替療法には、治療効果、つまりがんの進行を遅らせる、生存率を高める効果が証明され、治療法として勧められているものは現段階では1つもありません。従って、効果が期待できる治療法として見なされていません。同じく、吐き気やだるさなど、がんに伴う症状を和らげるための代替療法についても、治療法として勧められると判定されているものは、1つもありません」(ちなみにこのサイトは、標準的ながんの知識を得るのに日本で一番信用できるサイトです。もし「がんのことを調べたい」と思ったときには、最初にこのサイトを読んでみることをお勧めします)

 したがって、「科学的」に見れば、「民間療法はやらないほうがいい」と断言できるでしょう。民間療法のなかには根拠がないのに「効果がある」と宣伝し、ワラにもすがる思いでいる患者や家族から、高いお金をむしり取ろうとしているとしか思えないものもあります。

がん患者の48~87%に補完代替療法が普及しているというデータも

 しかし、がんになると民間療法を利用する人が非常に多いのが現実です。2005年に厚生労働省研究班が行った調査では、約45%の人が補完代替療法を利用していました。また、海外でも48~87%に補完代替療法が普及しているというデータがあります(日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン」2015年版)。

 こうした数字を踏まえると、民間療法は「騙されやすい一部の人が手を出すもの」とは、決して言えないことがわかります。健康なときには「なんで、あんなものに頼るのか」と思っていても、命の瀬戸際には誰だって(たとえ医師でも)試してみたくなるものなのです。

 ですから、私は民間療法を行っている人たちを、頭から否定するような論調には反対です。むしろ、なぜ人は命がかかる病気になると、民間療法にすがってしまうのか。患者さんたちは、どんな気持ちで民間療法を受けているのか。そして、私たちは民間療法とどう向き合うか、深く考えてみるべきだと思っています。

「週刊文春」の取材で実際に患者さんの声を聞き、自分で体験してみて何を感じたか?

 私はこの10月、「週刊文春」(2017年10月26日号)に「徹底検証 著名人がすがった『がん民間療法』」という記事を書きました。その際、民間療法家や患者さんの声を聞くだけでなく、私もさまざまな民間療法を身をもって体験してきました。しかし、記事ではその一部しか紹介できませんでした。

「週刊文春」2017年10月26日号 ©文藝春秋

 そこで、この連載の場を借りて、民間療法の現場で見て、聞いて、体験したことを、あらためてレポートしたいと思います。ただし、ここで紹介する民間療法を私は一切推奨するつもりはありません。患者さんの「効いた」といった話も、あくまで個人として信じていることで、科学的に検証されたわけではありません。その点をご理解いただいたうえで、鵜呑みにせずに読んでいただくようお願いします。

 まずは、自然療法を行っている京都の研究所を訪ねました。研究所といっても古い2階建ての民家で、1階では自然療法の材料や道具、本、健康食品などを販売しています。

 取材の日は、ヘッドフォンのようなものを装着するだけで様々な臓器や関節などの健康状態がわかるという測定器を体験する会で、参加費用は非会員8000円(会員は6000円)。私の他にも2組の親子連れらしき人が参加しており、測定を受けるためにみんなで2階に上がっていきました。