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《10年で16%拡大、122万部突破》万年赤字の老舗名門誌「ザ・ニューヨーカー」はなぜ“DXの成功例”となりえたか

2022/09/11
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「ネット時代に情報はタダになる」「長文記事はデジタルとの相性が悪い」。業界でまことしやかに語られていた神話を打ち砕き、メディアのデジタル・トランスフォーメーション(DX)の成功例となりえたのはなぜか。5代目編集長のデビッド・レムニック(63)に尋ねた。

5代目「ニューヨーカー」編集長のデビッド・レムニック氏 ©Elinor Carucci

“最後の編集長”にだけはなりたくない

「就任したときから『ニューヨーカー最後の編集長』にだけはなりたくない、と思っていた」

 ワシントン・ポスト紙でモスクワ特派員として活躍、ピューリッツァー賞作家でもあるレムニックがニューヨーカーに移籍したのは1992年。ライターから一足飛びに編集長に抜擢されたのは98年のことだ。

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 まもなくオーナー一族のS・Iニューハウス・ジュニアに呼ばれた。「隔週刊にすれば年間数100万ドルのコストが抑えられる。どうするか、君が決めてくれ」。実はニューヨーカーは万年赤字だったのだ。レムニックは1週間考えて返事をした。

「隔週化なんてばかげている」

 赤字が許容されてきたのは、ニューヨーカーを発行する大手雑誌社のコンデナストが、総合メディアグループのアドバンス・パブリケーションズの傘下にあったためだ。

「利益はグループ内に多数抱えていた地方紙が稼ぐので、雑誌は赤字でもいいという暗黙の了解があった」

 だが2008年のリーマンショックで事態は一変する。レムニックはそれを「ウェイクアップ・コール(目覚まし)」と表現する。「新聞の利益が回復する見込みはなかった。真剣に新たな事業モデルを探しはじめたが、選択肢は一つしかなかった」。

 デジタル化の流れに対応するとともに、収入の過半を占めていた広告からサブスク(定期購読)を中心とする事業モデルに転換する道だ。