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《10年で16%拡大、122万部突破》万年赤字の老舗名門誌「ザ・ニューヨーカー」はなぜ“DXの成功例”となりえたか

2022/09/11

「文藝春秋」2022年10月号より、土方奈美氏「『ザ・ニューヨーカー』DXで稼ぐ」の一部を掲載します。

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「こんなに活字を大切にする雑誌はほかにない」

「アメリカにもし信用できるものがあるとすれば、それは『ニューヨーカー』のような雑誌だと私は思ってきた。こんなに活字を大切にする雑誌はほかにない」

 作家の常盤新平は『「ニューヨーカー」物語 ロスとショーンと愉快な仲間たち』(ブレンダン・ギル著)の訳者あとがきにこう書いた。その名のとおりニューヨークを拠点とする総合週刊誌である同誌が、創刊60周年を迎えた1985年のことだ。

1925年の創刊号

 ニューヨーク大学がまとめた「20世紀アメリカ・ジャーナリズムの業績トップ100」で、1位に選ばれたジョン・ハーシーの『ヒロシマ』(1946年)、2位のレイチェル・カーソンの『沈黙の春』(1962年)は、いずれも初出はニューヨーカーだった。とりわけ前者は、アメリカ政府と連合国最高司令官総司令部(GHQ)の厳しい報道規制をかいくぐり、広島の原爆被害の実態を初めて世界に伝え、その後の核抑止の流れを作ったとされる歴史的な調査報道だ。

 近年ではハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力問題をニューヨーク・タイムズ紙とほぼ同着で特報。「#MeToo」運動の火付け役となり、筆者のローナン・ファローは2018年にピューリッツァー賞で最も栄誉ある公益部門賞を受賞した。

 社会、政治、科学など幅広い分野のノンフィクションに加えて、優れたフィクションも掲載しており、若き日のJ・D・サリンジャーが自作の掲載を熱望したことで知られる(その後13作品を掲載)。

電子版のみの契約は35万部に

 この老舗名門誌が今、雑誌業界を襲ったデジタル化の荒波に正面から挑み、生まれ変わろうとしている。アメリカの雑誌の経営環境は厳しい。市場調査会社スタティスタによると、雑誌など定期刊行物を発行する企業の収入の合計は、2007年の460億ドルから、2020年には239億ドルとほぼ半減。広告収入の大幅な減少になすすべもないという現状だ。

 そんななかニューヨーカーは主戦場をデジタルに移し、活字だけでなく音声や動画コンテンツにも進出。若い読者を獲得しながら部数を大きく伸ばしている。2021年の総部数は122万2851部と、ここ10年で16%拡大した。成長を支えるのが2014年に本格的に立ち上げた電子版で、電子版のみの契約は同年の9万部弱から2021年には35万部を超えた。

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