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「ほかのクマが食ったものかな」山形県・朝日連峰の名狩人が語った「死んだクマのその後」

『朝日連峰の狩人』 #1

note

押さえててぐうっと引っ張って穴口さ持ってきた

 クマは穴の中で決して暴れないのだなあ。だから昔の人、穴の中さ入って手足結んだとか、クマの背中さ自分の背中つけてだんだん穴口ヘ押してきた、っていうの本当みたい気するな。

 でもおれはもちろん入られないし、お前入ってぼい出してこいなんて言わんねいなあ。

 ほして、かじってそこらまで出はってきたから、「ぼいら(ぶらっと)出はったら撃てはあ」って言ったら、さっきの跳び上がった人、鉄砲上手なのでパーンと撃った。もうおっかなくないので穴口さ行ってみたら、下の氷さ弾当たった跡があるのよ。

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「当たんないんだよ」って言ったら、「当たった」ってその大将よ。でも棒切れ入れてもぜんぜん反応ないし、もう1人さ2間ぐらいある棒切ってこいって言ったら、何も木のない崖みたい所だけど、たちまち切ってきたけどよ。そして突っついたのよ。

 でも2間ぐらいあるので突っついても出はんないのよ。「出ねいはあ、死んだのでないかよ」って言うが、弾の跡もあるから死なねいし、血の跡もないし、「そら当たった」て言うしよ。おれ行って、前の年に穴さのぞいてるからよ、穴の形がわかるので、そっちの方やったらキチッと押さかれて(押さえられて)よ、そしてむしろ引っ張られるのよ。だからある程度押さえてて、ぐうっと引っ張ると少し動くのよ。また押さえててぐうっと引っ張って、それ繰り返して穴口さ持ってきて、片手出したの。「撃て!」って撃ったんだね。

 そしたら当たった。見たら最初のは、鼻の穴から入ってアゴに貫通してた。空の所ばり通ったんだね。3センチぐらい上がれば急所さ入るんだね。今度は首の骨すっぽり折ったけどね。ところが、今度、おっつけて(押しつけて)いかんねいし、引っ張りもさんねい(できない)のよ。氷だからナタで引いたらいいのだけど、ナタで引くとクマさ傷つくし、3人で引っ張ったけど引っ張らんねいし、困ったねえ。ちょっと待てろって横からロープかけて、木テコかけたら出てきたね。

 3月の末だった。まだ冬眠中だけど本当に寝てるのではない。寝てたら届かないとこだったけど、ツエで突っついたら起きてきたからね。

 ほしてそこ3本ブナ立っているんだけど、その入った木さ、ツメで皆ガチャガチャにしていたもんだっけな。目印だべね。でもこんな印の木なんてめったに見られないね。